トランプ米政権の関税政策によるインフレ再燃への懸念、低所得者層ほど負担増大
(米国)
ニューヨーク発
2025年04月08日
ドナルド・トランプ米大統領が世界共通関税と相互関税を課す大統領令を発令(2025年4月3日記事参照)したことに関し、米国の小売業界は関税導入がもたらすインフレの再燃が企業や消費者に大きな打撃を与えるとの懸念を表明した。
米国小売業リーダー協会(RILA)が4月2日に公表した声明で、同協会の広報担当上級副会長のマイケル・ハンソン氏は「大統領の計画は、米国の技術革新や国家安全保障を守る狙いを絞ったものではなく、全ての家庭の家計に打撃を与えるものだ。国民はこれ以上の値上げに耐える余裕はない」と述べ、ホワイトハウスに対し、関税政策の方針を再考するよう強く求めた。また、全米小売業協会(NRF)の政府渉外担当エグゼクティブバイスプレジデントのデービッド・フレンチ氏は同日公開した声明
で「関税引き上げは、米国の企業や消費者にとって不安と不確実性の増大を意味する」と述べ、「トランプ大統領には、経済の不確実性や米国の家庭への物価高騰を招かないかたちで、貿易相手国に説明責任を果たさせ、米国企業のために公平性を回復するよう促す」と主張した。
トランプ政権の関税導入に先立ち、NRFは関税政策による消費者の反応をまとめた調査結果(注)を公表した。これによると、76%の回答者が関税の引き上げによる物価への影響を懸念している。2025年の政府の最優先課題として、回答者の75%は、インフレに対処して食料品や日用品の価格を引き下げるべきだとした。一方、政府が貿易赤字の削減に重点を置くべきだと考える有権者は37%にとどまった。関税の導入は、特に低所得者層にマイナスの影響を与えるとの回答は57%に及んだ一方、富裕層への影響はなしは44%となり、所得格差のさらなる拡大に寄与する可能性が高まっている。
米国のイェール大学予算研究所は、トランプ政権の関税政策により、2025年の全ての関税を考慮した場合、米国の平均実効関税率が22.5%となり、1909年以来の高水準になるとの試算結果を公表した。これにより、米国の物価水準は短期的には2.3%上昇し、2024年の価値で、1世帯当たり平均3,800ドルの購買力を損失すると推定した。同研究所は、関税は所得の割合で見ると、短期的には低所得者ほど負担が大きい「逆進的な税金」となり、高所得者よりも低所得世帯に大きな負担をかけることになると分析した。
(注)調査は2,019人の登録有識者を対象に、3月25~27日に実施された。
(樫葉さくら)
(米国)
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