スペイン、ポルトガルで大規模停電、翌日にはほぼ全面復旧
(スペイン、ポルトガル)
マドリード発
2025年04月30日
イベリア半島のスペイン、ポルトガルで4月28日正午ごろ、大規模な停電が突如発生した。鉄道や地下鉄が運行停止し、多くの乗客が車両内や駅構内で足止めされた。バスやタクシーなどの道路交通機関は機能していたが、信号が全国的に消灯したことで、大都市を中心に混雑や渋滞が見られた。多数の警察官が交通整理やターミナル駅の警備に当たり、大きな事故や混乱は生じなかった。スペインの空港は非常用電源で運航を継続し、フライトのキャンセルや遅延は一部にとどまった(「エル・パイス」紙、4月28日)。
スペイン政府はこの「電力危機」を受け、同日午後に国家安全保障会議を招集し、マドリードなど単独で治安維持や公的医療サービス提供への対応が困難と判断した8自治州の要請により、国がこれらの公共サービスを一時的に指揮・統括することを決定した。送電事業者のレッド・エレクトリカ・デ・エスパーニャ(REE)は、フランスやモロッコから国際送電網を通じた電力の融通や、天然ガス複合サイクル火力発電所や水力発電所の稼働を行い、停電復旧に当たった。翌29日午前7時には、イベリア半島電力需要の99.95%〔約25.8ギガワット(GW)〕が復旧した。一方、鉄道は29日も運休や間引き運転の路線がある。
直接の原因は「電力系統の電圧急変動」
ペドロ・サンチェス首相は28日午後の記者会見で「午後0時33分、国内需要の約6割に相当する15GWの電源がわずか5秒間で電力システムから脱落するという前代未聞の事態が起こった」と説明した。REEは同日、直接の原因について「電力需給の急変動により、スペインの電力システムが欧州から切り離されたことで、需給バランスが崩れ、電力網が落ちたため」とし、それがなぜ起こったかについては調査中と述べた。
今回の大規模停電により、電化社会の脆弱(ぜいじゃく)性が露呈した。テレビやインターネットが利用できず、通話もできない中、電気店で携帯ラジオを購入する人の列ができた。カードやスマホでの決済もできず、銀行のATM機も機能を停止し、現金の必要性が再認識された。欧州委員会は3月下旬に災害やサイバー攻撃、紛争に対応するための「EU防災・危機対応連合戦略」を発表し、緊急時に備えた72時間分の備蓄をEU市民に推奨している。ウクライナから離れたスペインでは、危機対応意識が高いとはいえないが、この事態を受け、報道で防災意識の向上が呼びかけられた。
なお、今回、治安の悪化は特に見られず、都心ビジネス地区では、営業を続ける一部のバルやカフェテリアのテラス席がビールを飲む客であふれ、公園は親子連れで週末のようなにぎわいとなった。
28日、大渋滞の中でバスを待つ大勢のマドリード市民(ジェトロ撮影)
(伊藤裕規子)
(スペイン、ポルトガル)
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