タイ中銀、米国関税の影響分析、迂回防止を提言

(タイ、米国)

バンコク発

2025年04月30日

タイ中央銀行(BOT)は4月17日、「世界貿易政策がタイ経済に与える影響の予備分析」を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、米国の関税措置と主要国の対応がタイ経済・産業に与える影響を報告した。金融市場の変動性が増し、生産や貿易、投資が減速する中、2025年後半に輸出への影響が明確になると予測している。

BOTは、タイや他国に賦課される関税や、主要国の対米報復措置にも左右されるとしつつ、主に5つのチャネルで影響を受けるという。

  • 金融:世界中の資産価格は変動しやすくなっているが、流動性と市場機能は正常。米国経済への懸念から、ドルが急速に減価している。株式市場は下落し、タイ政府債券の利回りはわずかに上昇している。
  • 投資:高い不確実性が続き、対米輸出が盛んな産業(電気・電子機器、機械、自動車)では、経営・投資判断は様子見。タイが他国より高い関税を課される場合、生産がタイから移転する可能性がある。
  • 輸出:多大な影響を見込む一方、90日間の相互関税猶予で依然として不確実。2025年後半から影響が明確になる見込みで、第2四半期(4~6月)は特に加工食品の輸出が加速する。対米輸出はタイの総輸出の18%、GDPの2.2%を占めるが、主に電気・電子機器、機械、自動車、加工食品などが影響を受ける。グローバルサプライチェーンを通じ、米国需要と連動するかたちで、化学・ゴム製品、自動車部品、鉄鋼・金属などでの追加の影響が見込まれる。こうした追加影響を受ける部分がタイの輸出の約4.3%を占める。
  • 競争の激化:対米輸出が減少する他国企業がタイ国内や第三国に輸出を振り向けることで、競争が激化する。特に電気・電子機器、鉄鋼・金属、機械、化学が顕著で、製造業へのプレッシャーが高まる。
  • 世界経済の減速:輸出や観光収入が影響を受けるとともに、世界の商品価格が下がる。タイの輸入コストが削減され、供給側の要因によってインフレが低下する。

BOTはタイや世界の経済構造が恒久的に変わりつつあると指摘した。短期的には対米交渉を加速させ、外国製品との競争に対処し、米国に再輸出する目的でのタイへの輸入防止の措置を講じるべきと提言している。輸入防止策には、輸入品の品質検査や、アンチダンピング(AD)、相殺関税などの迅速化、第三国からタイを迂回する米国向け輸出品の検査を挙げた。

長期的な戦略では、輸出拡大に向けて、タイが潜在力を持つ産業(加工農産物、食品、医療・ウエルネス・観光)の発展に資する研究開発とイノベーション、労働者の技能強化、規制の簡素化を促した。

(藪恭兵)

(タイ、米国)

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