大統領選を巡り、鮮明となる与野党を分かつ壁
(チリ)
調査部米州課
2025年04月18日
「24HORAS」や「MEGANOTICIAS」などのチリの主要メディアは、次期大統領選挙への立候補を表明しているエブリン・マテイ氏による、軍事政権時代のチリについての発言と、その余波について報じた。同氏は、4月16日に実施された「Agricultura TV」のインタビューの中で、「1973年の軍事クーデターは不可避の出来事であり、他の選択肢は存在しなかった」と発言した。ただし直後には、「軍事政権そのものや、同政権下での人権侵害を肯定するものではない」とも発言している。チリでは、この軍事クーデターや、その後に樹立されたアウグスト・ピノチェトが主導する独裁政権を巡っての見解の相違が、いまだに政党の左右の派閥を分かつ重要なテーマとなっている(注)。
このマテイ氏の発言について、左派に分類される現政権の関係者や、次期大統領選の候補者からは一斉に批判の声が上がった。ガブリエル・ボリッチ大統領もその1人で、自らのX(旧Twitter)上で、軍事クーデターは正当化できるものではなく、それによって成立した独裁政権も非合法で、犯罪そのもの、という旨の投稿を行った。さらには、過去にマテイ氏が海外のメディアに対して、同様の見解を示した英語でのインタビュー動画をリポストし、「追撃」を加えている。
これらの反応を受け、マテイ氏は自身のXを更新し、「クーデターの発生は、国内で生じた見解の不一致に対する民主的な解決策を見つけることができなかった、当時のあらゆる政治勢力の能力の欠如によって生じたものだ。私はこれまで人権侵害を肯定したことはなく、常に対話と民主主義を自らの信条としてきた」とのメッセージを発信した。
4月17日付の「ラ・テルセラ」は、本件以外にも、4月以降にマテイ氏が首都圏州内の多目的スタジアムの警備状況や、リチウム生産大手のSQMと国営銅公社(CODELCO)の間で締結された覚書(MOU)の内容に関して政府関係者と繰り広げた舌戦について、マテイ氏の「誤り」として、否定的に報じている。マテイ氏は、直近の世論調査では次期大統領選の投票先としてトップの支持率を得ており(2025年4月10日記事参照)、良くも悪くもその一挙手一投足に世論の注目が集まっている。
(注)総じて、軍事クーデターやピノチェト政権を部分的にでも肯定する立場が右派、反対にそれらを強く否定し、社会主義を志向したサルバドール・アジェンデ政権を肯定する立場が左派に分類される。
(佐藤竣平)
(チリ)
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