米オープンAI、トランプ政権下のAIアクションプランに中国製AIモデル使用禁止を提言

(米国、中国)

サンフランシスコ発

2025年03月21日

米国のオープンAIは3月13日、トランプ政権が進める「AIアクションプラン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」に対するパブリックコメントとして(2025年2月26日記事参照)、中国の人工知能(AI)スタートアップのディープシークに関する安全保障上の懸念を強く訴える書簡を大統領府科学技術政策局(OSTP)に提出した。

書簡では「AIにより人間の創造性をより迅速かつ低コストで拡大させることで、社会の成長に焦点を置くことができる」として、過度な規制を避けることが望ましいとの立場を明確にしている。また「学習の自由を促進する著作権戦略」と「米国製AIモデルが著作物から学習する能力を維持すること」の重要性も強調し、AI産業の国際競争力維持にはフェアユース原則(注)の保持が不可欠だと主張している。

さらに、ディープシークについて、「国家の管理と補助を受け、無料で使用可能なモデルである代わりに、ユーザーのプライバシーとセキュリティーを対価に支払うことになる」と評し、中国共産党(CCP)によるモデル操作やユーザーデータの取得が可能というリスクを指摘した。中国の法律では企業が政府の要請に応じて情報提供を義務付けられている点を踏まえ、プライバシーや知的財産流出の懸念があるモデルの使用を禁止するよう、米政府に求めている。

ディープシークは、ヘッジファンド「ハイフライヤー」からスピンアウトして2023年に設立され、オープンAIのチャットGPTに対抗する推論モデル「R1」などを相次いで公開し、急成長してきた(2025年1月31日記事2025年1月31日記事参照)。このモデルは、マイクロソフトのクラウドサービス「アズールAIファウンドリー」や、エヌビディアの「NIMマイクロサービス」、オープンソースのAI共有プラットフォームの「ハギングフェース」でも提供されている。これらのプラットフォームで提供されるディープシークのモデルは、ユーザーデータが中国で管理されるわけではないものの、オープンAIは国家安全保障リスクの高まりに警鐘を鳴らしている。

一方、ディープシークを巡っては、韓国やイタリアの政府、イタリアのデータ保護機関、台湾当局などが相次いで政府機関での利用を禁止している。日本では政府機関での利用に注意喚起が行われた。米国でも国防総省や海軍、ニューヨーク州政府、法律事務所などが利用制限に踏み切った。韓国では個人情報保護委員会(PIPC)が、韓国ユーザーのデータがTikTokの親会社バイトダンスに転送されていた事実を確認し、アプリストアでの一時的な配信停止を講じた。

こうした中、米政府でも今後、中国製AIの政府端末での使用を全面的に禁止する可能性も報じられており(「ウォールストリート・ジャーナル」紙3月7日)、今後の動向が注目される。

(注)著作権法で、著作権者の許諾なく著作物を使用しても、公正な利用であれば認められるとする考え方。

(松井美樹)

(米国、中国)

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