米調査機関、ディープシークは5万個超のエヌビディア製AI用チップ保有と推定
(米国、中国)
サンフランシスコ発
2025年02月06日
半導体業界や人工知能(AI)、クラウドコンピューティング分野の技術動向や市場分析を行う米国調査機関のセミアナリシスは1月31日、中国AIスタートアップのディープシークが開発にかけた費用などに関する報告書を発表した。同報告書では、ディープシークV3が注目を集めた話題の1つの「学習コストが600万ドル以下」については、事前学習時のチップのコストのみを指しており、全体のコストのごく一部にすぎないと指摘し、ディープシークは米国の半導体輸出規制の影響を考慮しても、これまでに少なくとも5億ドル以上を半導体チップの購入に費やしていると推定した。
報告書では、ディープシークはエヌビディア製スーパーチップ(注1)を利用しており、約1万個のH800、約1万個のH100、約3万個のH20を使用していると試算し、計5万個以上のスーパーチップを保有していると推定した。H800はH100と同等の計算能力を持つが、ネットワーク帯域幅(注2)が制限されている。いずれも米国の輸出規制の対象だが、ディープシークのヘッジファンド「ハイフライヤー」が輸出規制が課される前の2021年にA100を1万個購入し、現在もディープシークと共有しているという。
同報告書ではさらに、ディープシークのサーバー設備投資に約16億2,900万ドル、運用コストは9億4,400万ドルと試算している。また、中国国内の人材のみを採用しており、北京大学や浙江大学などのトップ大学卒業生が多数を占めている。求人広告には「数万個のチップを自由に使用可能」と強調しており、有望な人材にはドルに換算して年間130万ドルを超える給与を提示しているという。中国の大手テック企業やAIラボと比較してもはるかに高額な報酬で、現在、社員数は約150人とされている。
また、同報告書では、ディープシークが推論時のメモリー使用量を大幅に削減し、処理効率を向上させる技術(Multi-Head Latent Attention)を高く評価している(他の技術的な最適化については、2025年1月31日記事参照)。さらに、オープンAIのo1の技術的進歩をより低コストで実現した点も評価している。一方、「o1の技術的進歩を覆すものではない」とし、「ファストフォロワー(素早く技術を追随する企業)」にとどまっていると分析している。
AI開発には、アルゴリズムの進化だけでなく、巨額の資本とハードウエア投資が不可欠で、今後の米中のAI競争は、いかにして計算資源を確保し続けるかがカギとなるだろう。米国は依然として最先端研究をリードしているが、ディープシークのような企業が低コストで技術を最適化し、追いついてきている。米国の対中輸出規制が強化されれば、中国のAI開発が一時的に影響を受ける可能性があるが、長期的には、国内でのチップ開発やAIモデルの進化が加速するなど、独自のエコシステムが確立する可能性もある。
(注1)回路素子が非常に高い密度で組まれた集積回路のこと。エヌビディアからグレースCPU、ホッパーGPUが販売されている。H800、H100、H20のHはホッパーGPUの頭文字Hを指す。
(注2)一定の時間内にネットワーク接続を介してデータを送信できる最大速度で、通常ビット/秒で測定される。
(松井美樹)
(米国、中国)
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