欧州委の専門機関、AIやデジタルツインなどの新たなイノベーションに関し提言

(EU)

調査部欧州課

2025年02月28日

欧州委員会の政策形成を支援する共同研究センター(JRC)が2月17日に発行したレポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによれば、人工知能(AI)、デジタルツイン(注)、バイオテクノロジーなどの新たなイノベーションに関する科学研究において、欧州はリーダーシップを発揮している一方で課題も残っており、欧州が競争力を維持するためには戦略的投資が必要とした。

同レポートでは、2024年に特定された221の「ウィークシグナル(弱い兆候)」を分析し、次の12の技術分野に分類。ウィークシグナルとは、将来的に大きな影響を及ぼす可能性のある新興技術の兆候を指し、査読付き科学論文(Scopus)や特許文書(Patstat)をテキストマイニング(注2)やクラスタリング技術(注3)で解析し、特定されたもの。

  1. 先端材料・先端製造(全固体リチウム金属電池、再構成可能インテリジェント表面など)
  2. 航空宇宙[電動垂直離着陸(eVTOL)、持続可能な航空燃料(SAF)など]
  3. モビリティ・輸送〔ライダー(LiDAR)センサーを用いた自己位置推定とマッピング、6Gを活用した車車間・路車間通信〕
  4. デジタルツイン(都市デジタルツイン、医療分野のデジタルツインなど)
  5. AI・機械学習(説明可能なAI、連合学習など)
  6. 情報通信技術(ICT)(メタバース、ブロックチェーンなど)
  7. 医療画像処理(全身PET、MRIラジオミクスなど)
  8. 医療・バイオテクノロジー(mRNAワクチン、CAR-NK細胞療法など)
  9. e-ヘルス(AIを活用した医療診断、デジタル治療など)
  10. 環境・農業(培養肉、マイクロプラスチック分解など)
  11. エネルギー(グリーンアンモニア、SAFなど)
  12. 量子技術・暗号(ゲート型量子コンピューティング、超伝導量子プロセッサなど)

米国と中国は、新興技術の大半の分野において最前線にいる。欧州は、デジタルツイン、AIと機械学習、治療学とバイオテクノロジー、エネルギー、環境と農業のクラスターにおける新興技術の研究において強力な地位を占めており、科学論文のかなりの割合に貢献している。

一方で、特許取得数においては、米国と中国が12の全ての分野でリードしているのに対し、欧州は特許出願数が少ない。報告書では、欧州が競争力を維持するためには、国際的な協力と知識の交換が重要と強調するとともに、特許取得における格差に対処し、現在細分化されている研究開発の状況を改善するために戦略的に投資する必要があるとしている。EUは、新興技術の開発を支援することで、イノベーション、競争力、持続可能な成長を促進し、市民生活を向上させることができるとした。

(注1)「デジタル上の双子」の意で、物理的なモノと空間をデジタル上に再現し、シミュレーションや管理などを行う技術。

(注2)大量のテキストデータから、有用な情報を抽出するための技術。

(注3)機械学習において、データ間の類似度にもとづいて、データをグループ分けする手法。

(坂本裕司)

(EU)

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