米上院、国境措置などへの追加支出盛り込んだ予算決議案を可決
(米国)
ニューヨーク発
2025年02月25日
米国連邦議会上院は2月21日、トランプ政権が重視する国境措置などに必要な費用を盛り込んだ2025会計年度(2024年10月~2025年9月)予算決議案(注1)を52対48で可決した。政権が重視している予算項目としては、国境措置の強化、国防費の増額、エネルギー生産の強化、トランプ減税の延長などがあるが、今回可決した予算決議では、このうち減税措置を除く項目に対応する費用を盛り込んでおり、国境措置の強化として今後10年間で1,750億ドル、国防費の増額として同1,500億ドルを充てている。今回の予算決議は、2025年度予算での財政調整措置(注2)を活用し、減税措置に関しては、2026年度予算を審議する過程で、年後半に議論し取りまとめていく考えで、政権の重視する予算項目を2段階に分けて実現していく方針だ。
今回採択された予算決議が実際に成立するかは下院次第だ。マイク・ジョンソン下院議長(共和党、ルイジアナ州)やジェイソン・スミス歳入委員長(共和党、ミズーリ州)は上院の進めている2段階の案には否定的な考えで、上記の項目を1本の法案としてまとめ、2025年度予算の財政調整措置を活用して採択するべく、調整を進めている。2本案で議論する場合、財政赤字の大幅な拡大を伴う減税措置に関して、フリーダム・コーカスと呼ばれる共和党内の財政強硬派などの支持が得られにくくなる可能性を懸念し、国境措置と減税措置を一体的に議論することで、南部出身の議員が多い同グループの法案への支持を集めやすくする狙いがあるとみられる。
もっとも、下院の進める1本案も、さまざまな問題を抱えている。現在議論している案では、(1)1兆5,000億ドルの歳出削減、(2)4兆ドルの債務上限引き上げ、(3)4兆5,000億ドルの減税措置の拡大を柱として、調整が進められているもようだ。(1)に関しては、フリーダム・コーカスの主張に配慮した規模となっているが、低所得者向け医療保険メディケイドなどを所管するエネルギー・商業委員会に対して、8,800億ドルの歳出削減を求めており、共和党穏健派を中心に懸念の声が上がる。また、(3)に関しても、4兆5,000億ドルという規模では十分な減税は実施できない可能性が高い。1月に財務省が発表したレポート
では、トランプ減税のうち2025年末に期限が切れる所得税・相続税減税の延長だけでも、4兆2,000億ドルの費用が必要と見込まれている。このため、仮に減税規模が4兆5,000億ドルにとどまる場合、ドナルド・トランプ大統領が選挙期間中に言及した企業向け減税やチップ課税免除などの措置(2024年11月25日付地域・分析レポート)は、そのほとんどが実施できない計算となる。このような課題を抱える中で、下院の進める1本案に十分な支持が集まるかどうかは微妙な情勢だ。
このため、トランプ大統領は自身のSNSで、早期に減税を実施できる下院の1本案の方がより好ましいとの見解を示しつつ、今回可決された上院案にも賛辞を送るなど、両にらみのスタンスをとっている。
(注1)予算枠の全体像を示すもの。ここで定められた枠を基に、各歳出法案が策定される。
(注2)この規定により、債務上限や歳出に関する法案は、フィリバスター(議事妨害)を回避して過半数で可決することが可能となる。1歳出年度に1度しか利用できない、上下院で同一の法案を審議しなければならないなど、幾つかの制約がある。
(加藤翔一)
(米国)
ビジネス短信 061ab46411a140ee