中国EU商会が報告書を発表、中国事業の「サイロ化」に懸念を表明

(中国、EU)

上海発

2025年01月17日

在中国の欧州企業の団体、中国EU商会は1月9日、「サイロ化と多様化、1つの世界、2つのシステム」と題した報告書を発表した(注1)。この報告書は、中国市場におけるサプライチェーン、人材、データ・ITシステム、研究開発(R&D)・標準におけるサイロ化(注2)の傾向について分析し、有効な提言活動の在り方を模索すべく、同商会会員企業へのアンケート調査などを実施した結果を取りまとめたもの。同調査結果として、在中国進出欧州企業は、中国における事業の運営システムをサイロ化せざるを得なくなっており、企業と経済に大きなコスト増をもたらしていると強調した。このほか、本報告書の概要は次のとおり。

地政学的および貿易面での緊張や、中国政府による科学技術の「自立自強」政策の強化、中国国内外の規制リスクの高まりを受け、多くの多国籍企業は、中国拠点における特定の機能あるいは運営システム全体を、その他の地域から分離するというサイロ化を行っている。一部の中国EU商会会員企業はこうしたプロセスに多額の投資を行っており、企業名称を除いて、その他は中国企業と区別が付かないほどまで現地化を進めている。具体的には、サプライチェーン、人材、販売および調達機能を現地化し、研究開発、データおよび情報技術システムをサイロ化することで、変化する規制要件に対応し、中国政府と現地のパートナーおよび顧客から「信頼できるパートナー」として認められるように努めている。

ただし、サイロ化することにより、全体的なコストとグローバルビジネスにおけるコンプライアンスリスクが増大している。業務と生産を重複させる必要が生じており、最終的には非効率性、イノベーション能力の低下、国際競争力の喪失につながっている。また、一部の欧州企業が中国国内でサプライチェーンの現地化を進めている一方で、一部の企業ではサプライチェーンを中国国外に移管しており、こうした動きは中国にとっても対内直接投資の流出や、中国における雇用と税収の大きな損失につながり得る。

また、この報告書では、EU、中国に対して、それぞれ提言も行っている。EUに対しては、中国に対する積極的な関与を継続するべきだとしたうえで、EUの対中国戦略が、既存および新たな優先事項と課題の両面を反映し、協力と競争の適切なバランスが保たれるべきだと指摘した。また、中国に対しては、誠実な対話を促進し、EU・多国籍企業・業界団体の関係者とより積極的に連携し、過度な「自立自強」政策から脱却すべきだとした。

(注1)同調査は、在中国EU商会会員682社を対象に2024年8~11月にかけてオンラインによるアンケート調査とフォローアップインタビューを行った結果をまとめたもの。オンラインアンケート調査の有効回答数は128社。

(注2)サイロ化とは、組織や情報が孤立し、共有できていない状態を指す。

(神野可奈子)

(中国、EU)

ビジネス短信 4ffe932123ed1e6c