バイデン米大統領がUSスチール買収に禁止命令、日本製鉄は提訴を発表
(米国、日本)
ニューヨーク発
2025年01月07日
米国のジョー・バイデン大統領は1月3日、日本製鉄による米国鉄鋼大手USスチールの買収計画について、米国の国家安全保障上の懸念を理由に、取引を禁止する行政命令を発表した。日本企業による米国企業の買収を米国大統領が禁止したのは今回が初めて(注1)。
日本製鉄とUSスチールは、2023年12月に買収計画の合意を発表した(2023年12月19日記事参照)。同計画について、外国企業による対米投資に伴う国家安全保障上の懸念を審査する省庁横断委員会の対米外国投資委員会(CFIUS)が審査を行っていた。CFIUSの審査の詳細は明らかになっていないものの、日本製鉄とUSスチールの発表(注2)によると、CFIUS内で意見がまとまらず、2024年12月にバイデン大統領に取引認否の最終判断を付託していたもようだ。
バイデン大統領は取引禁止命令と同じ3日の声明で、「CFIUSが決定したように、この買収は、米国最大の鉄鋼生産者の1社を外国の支配下に置くもので、米国の国家安全保障と重要サプライチェーンにリスクをもたらすものだ」「米国が、国内で所有・運営される強力な鉄鋼産業を確保することは、私の大統領としての重要な責務だ」と述べた。
日本製鉄とUSスチールは同日に共同声明を発表し(日本製鉄発表、USスチール発表
)、取引禁止命令に失望しているとした上で、「法的権利を守るためにあらゆる措置を追求する」と述べた。実際に両社は1月6日、CFIUSの審査手続きが法定要件に違反し、違法な政治的介入があったなどとして、CFIUS審査と取引禁止命令の無効を求める訴訟をコロンビア特別区連邦控訴裁判所に提起した。また、米国鉄鋼メーカーのクリーブランド・クリフス、同社最高経営責任者(CEO)のローレンソ・ゴンカルベス氏、米国鉄鋼労組(USW)会長のデビッド・マッコール氏が、買収計画の阻止に向けて共謀して違法行為を働いたとする訴訟をペンシルベニア州西部地区連邦地方裁判所に提起した(日本製鉄発表
、USスチール発表
)。
日本の石破茂首相は1月6日の会見で、「日本の産業界から今後の日米間の投資について懸念の声が上がっており、重く受け止めざるを得ない」「なぜ国家安全保障上の懸念があるかについて、(米国政府に)きちんと述べてもらわなければこれからの話にならない。いかに同盟国であろうとも、今後の関係においてこうした点は非常に重要だ」と述べた。
(注1)CFIUSが設立された1975年以降、米国大統領は今回の命令を含めて、CFIUSの審査結果を踏まえて9件の取引禁止命令を発令している。今回の命令を除く8件は、いずれも何らかのかたちで中国が関与しており、CFIUSが取引の禁止を米国大統領に勧告していた(添付資料表参照)。
(注2)2025年1月6日の日本製鉄とUSスチールの訴訟提起に関する発表資料の中、「本訴訟に関する詳細情報」に基づく。
(葛西泰介)
(米国、日本)
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