企業年金保険制度改革、国民投票で否決

(スイス)

ジュネーブ発

2024年10月02日

スイスで国民投票が9月22日に実施された外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。「生物多様性の保護」に関するイニシアチブ(国民発議、注1)と、「企業年金保険制度改革」に関するレファレンダム(注2)の投票が行われ、反対票がそれぞれ63.04%(投票率45.19%)と、67.13%(45.04%)で、ともに否決された。

「生物多様性の保護」に関するイニシアチブは、自然、景観、都市環境の保全のため、生物多様性保護の資金を増やし、より多くの保護区を設置することを求めるものだ。特に景観、生息地、地域のアイデンティティーを保護する責任を各州に求めた。連邦参事会(内閣)や議会は、生物多様性の保護は既に促進されており、連邦政府と州の行動範囲を制限し過ぎるとして、反対するよう国民に呼びかけていた。

「企業年金保険制度改革」は、企業年金の財源を長期的に確保する措置を盛り込んだものだ。スイスの年金制度は、(1)老齢・遺族年金保険(フランス語:AVS、ドイツ語:AHV)、障害者年金保険(フランス語:AI、ドイツ語:IV)、(2)企業年金保険(フランス語:LPP、ドイツ語:BVG)、(3)個人年金の3本の柱からなる。第1の柱の老齢・遺族年金保険(AVS/AHV)制度改革については、2022年9月の国民投票で可決されており(2022年10月4日記事参照)、今回のレファレンダムは第2の柱に関するものだ。

主な措置は年金の年間支給額を決める転換率の引き下げで、現行の6.8%から6.0%への引き下げを盛り込んだ。例えば、積立金が10万スイス・フラン(約1,710万円、CHF、1CHF=約171円)だと、年金の年間給付額は現行の6,800CHFから6,000CHFに引き下げられることになる。受給額の減少を相殺するため、保険料算定の際の調整控除を固定額ではなく年収の20%とすることや、過渡期世代に対する年金上乗せなどの代替措置も盛り込んだ。また、企業年金保険の対象となる年収を現行の2万2,050CHFから1万9,845CHFに引き下げることで、パートタイムで働く女性などより多くの層が企業年金保険制度を享受できるようにすることも盛り込んだ。

連邦参事会(内閣)や連邦議会は、企業年金保険制度の持続的な運営のために今回の改革は必要で、収入の少ない人にとっては老後の年金がより充実したものになるとして、国民に賛成を呼び掛けていた。一方、スイス労働組合連合(SGB/USS)は、支払う保険料が増えるにもかかわらず、年金受給額が減るとして反対を呼び掛けていた。

(注1)有権者10万人以上の署名を要件として、国民が憲法改正の提案を行うもの。

(注2)議会が可決した法律の是非について国民が投票するもの。

(深谷薫、パブロ・ダス)

(スイス)

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