米大統領候補のハリス氏とトランプ氏の討論会、ハリス氏「勝利」も、なお接戦
(米国)
ニューヨーク発
2024年09月12日
11月の米国大統領選挙の候補者、民主党のカマラ・ハリス副大統領と共和党のドナルド・トランプ前大統領による討論会が9月10日に行われた(注1)。米主要メディアでは、初の直接対決をハリス氏の「勝利」と評する論調が優勢だ。ただし、選挙戦は依然として接戦のままとみられている。
まず討論会の冒頭、経済状況について質問されたハリス氏は、高騰する住居費への対応や、子供がいる家庭への6,000ドルの減税、中小企業への5万ドルの税額控除など、自身の経済政策を述べた。トランプ氏が提唱する減税は、大企業を優遇するものだと批判した。これに対し、トランプ氏は、自身の政権下で中国に対して関税を引き上げたが、その際にインフレは起きなかったと強調した。
ハリス氏は、トランプ氏が提案している輸入品への一律の高関税賦課を批判している一方で、バイデン政権はトランプ前政権が中国原産品に課した1974年通商法301条に基づく追加関税を維持している(注2)。司会者から、トランプ前政権が課した関税を維持していることについて見解を求められると、ハリス氏は直接的には答えず、中国との人工知能(AI)や量子コンピューティングの競争に勝つために、米国発の技術に投資することなどが重要だと回答した。
経済状況とならんで今回の選挙の争点の1つになっている人工妊娠中絶については、トランプ氏は反対しているのではなく、州の判断に委ねているとの立場を崩さなかった。また、体外受精(IVF)を擁護する発言もした。ハリス氏もこれまでのとおり、連邦議会が「ロー対ウェイド判決」(注3)の保護を復活させる法案を可決した際には、「誇りを持って署名することを誓う」と述べた。これに対し、トランプ氏は、上院と下院で勢力が拮抗(きっこう)している中では、大統領が当該法案に署名する機会はあり得ないと指摘した。
移民については、バイデン政権による国境警備強化(2024年6月5日記事参照)がなぜ大統領選投票日の6カ月前に実行されたのかという司会者の問いに対し、ハリス氏は、トランプ氏の指示を受けた下院共和党の反対がなければ、もっと早期に国境に1,500人の国境警備隊を増員できたとしてトランプ氏を非難した。一方で、トランプ氏は、司会者が膨大な人数の不法移民の強制送還を行う現実的な方法について質問した際、具体的な方法は述べなかった(注4)。
両候補ともに「弱点」とされる分野については、今回の討論会でも明確な回答は述べなかったものの、米メディアはおおむねハリス氏の「勝利」と評した。議会専門紙「ザ・ヒル」(9月11日)は、討論会の大半でトランプ氏が動揺していたのに対し、ハリス氏は一貫して落ち着いたパフォーマンスを見せたとし、「副大統領にとって、これ以上ない最高の夜となった」とした。政治専門紙「ポリティコ」(9月11日)も、これまでのトランプ氏の討論相手の中で最高のできだったとする記者の見方を紹介した。ただし、それでも選挙戦は接戦のままとの見方が多い。「ワシントン・ポスト」紙(9月11日)は、今回の討論会が「今後数週間はハリス氏の女性支持率が選挙結果を左右する決定的な要因になるかもしれない」としつつも、「2024年の選挙はこれ以上ないほど接戦だ」と慎重な姿勢を示している。
両候補による2度目の討論会が実施されるかは不透明だ。今回の結果を受け、トランプ陣営は2度目を望まないとの指摘もある。副大統領候補のミネソタ州のティム・ウォルズ知事(民主党)とJ.D.バンス上院議員(共和党、オハイオ州)の討論会は10月1日に予定されている(2024年8月16日記事参照)。
(注1)討論会の内容については、2024年9月11日記事も参照。
(注2)2024年5月には、301条に基づく対中追加関税率の引き上げを発表している(2024年9月2日記事参照)。なお、バイデン政権は1962年通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税も維持している(2024年7月12日記事参照)。
(注3)連邦最高裁が1973年1月、テキサス州の中絶法を違憲とし、女性の人工妊娠中絶権を憲法上の権利として認めた判決。
(注4)両党の政策綱領を基にした政策比較は、2024年8月9日付、2024年9月6日付地域・分析レポートを参照。
(赤平大寿)
(米国)
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