WTO電子商取引、テキスト公表も米国などで継続協議

(世界)

調査部国際経済課

2024年08月01日

WTOが有志国で進める電子商取引共同イニシアチブ(JSI)に関して、共同議長国の日本、シンガポール、オーストラリアは7月26日に共同声明を発表し、協定のテキストを公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。JSIには91カ国・地域が参加する。

テキストは38条文から構成され、「関税不賦課の恒久的な禁止」をはじめとして、「貿易書類の電子化や規制の透明化などを通じた電子決済の促進による電子商取引の貿易円滑化」「政府データの公開やインターネットのアクセス・使用を通じた開かれた電子商取引の確保」「サイバーセキュリティー、オンライン消費者保護や個人情報保護による電子商取引の信頼性向上」などの規律が盛り込まれた。一方、これまでJSIでの交渉が難航していた自由な越境データ流通や、データの国内管理を義務付けるデータローカリゼーション要求の禁止、ソースコードの強制的開示の禁止などの項目については、協定テキストには盛り込まれていない。これらの規律を含めて残された論点はJSIであらためて議論することが想定されている。

経済産業省によると、同テキストが実際に協定化されれば、グローバルなデジタル貿易に関するルールとして、デジタル貿易に携わる消費者や企業、特に中小企業・小規模企業者に利益をもたらすと期待される。参加国・地域は交渉の成果をWTOの法的枠組みを統合することを目的に国内手続きを進める。

一方、声明には、継続中の国内協議や検討のため、声明は米国やインドネシアなど9カ国・地域には回付されないと記載された(注)。ジュネーブ国際機関米国政府代表部でWTO大使を務めるマリア・ペイガン氏は「安全保障上の例外措置の議論を含め、現状のテキストは不十分とし、参加する準備が整っていない」との声明を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。米国は2023年10月、上述の自由な越境データ流通、データローカライゼーションの要求禁止、ソースコードの開示要求禁止などに関わる提案について、支持を取り下げており、それまでの自由化を推進する立場から方向転換している(2023年10月30日記事参照)。

また、同JSIに参加していないインドなど一部のWTO加盟国は複数国間での交渉に強く反対しており、今回公表されたテキストがWTOの法的枠組みに正式に組み入れられるか今後の注目点となる(政治専門誌「ポリティコ」7月26日)。

(注)共同声明の脚注には「継続中の国内協議や検討のため、本声明は、ブラジル、コロンビア、エルサルバドル、グアテマラ、インドネシア、パラグアイ、台湾、トルコ、米国を除く電子商取引共同声明イニシアチブの参加国・地域を代表し、回付される」と記載されている。

(伊尾木智子)

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