韓国政府、核融合エネルギー先導国実現に向けた新戦略策定
(韓国)
ソウル発
2024年07月26日
韓国の科学技術情報通信部は7月22日、第20回国家核融合委員会(注1)を開催し、「核融合エネルギー実現加速化戦略(案)」を発表した。同戦略を策定する背景として、(1)人工知能(AI)やデジタル化が世界的に進み、エネルギー需要が将来的に増加する中で、海外の巨大企業や世界主要国が大規模な投資、研究開発を進め、挑戦的な目標を掲げていること、(2)国内でも韓国型超電導核融合研究装置(KSTAR、注2)の建設・運営や、国際核融合実験炉(ITER、注3)事業への参画により、設計・製作・運営技術が蓄積したことなどを挙げている。
同戦略では、核融合エネルギーの先導国家の実現を目標に掲げ、3つの基本方向と9つの中核的課題を設定した。概要は次のとおり。
(1)官民協力を通じた核融合技術革新
- 民間のエンジニアリング技術と公的機関の核融合技術を結合した中核技術開発を支援
- 官民協力の「プラグイン(Plug-in:Plasma for Unlimited power Generation&INovation)プログラム」を導入し、民間の創造的な研究を公的機関が支援
- デジタル技術を活用し、核融合デジタル革新を推進〔デジタルツイン技術を活用した仮想核融合炉の製作、IoT(モノのインターネット)基盤の運転状態点検技術の開発など〕
(2)核融合エネルギー産業化基盤の構築
- 民間企業、大学、研究機関などで構成する「核融合革新討論会」を発足(2024年下半期)、核融合関連のスタートアップの創出を支援する「K-Fusion Startup事業」を推進
- 国内核融合企業の世界市場への進出を支援(海外研究設備建設事業の受注支援、海外技術、規制、発注、入札などの情報を提供するプラットフォームの構築など)
- 核融合研究開発の成果活用と拡大推進
(3)核融合エネルギー革新エコシステムの造成
- 官民協力のための核融合開放型研究エコシステムを強化(KSTARを民間企業が共同活用し、実験に参加できる機会を拡大、KSTARやITERなどを通じて蓄積したデータが活用できる「核融合ビッグデータセンター」構築など)
- 専門人材の確保・育成を推進(大学の核融合専攻や科目を新設・拡大、ITERと連携した教育訓練プログラムを拡充、海外研究者の誘致と定着を推進)
- 国際的リーダーシップの強化(KSTARを活用したITERへの貢献、米国や欧州、日本など国家間の研究施設共有や共同研究など)
同部は戦略(案)の発表と同時に、1兆2,000億ウォン(約1,320億円、1ウォン=約0.11円)の核融合革新型技術開発と基盤構築事業の新規事業を予定していることも明らかにした。同部の李宗昊(イ・ジョンホ)長官は「官民協力の研究開発への転換と核融合エコシステムの強化を通じ、核融合エネルギーを早期に確保し主導権を確保したい」と意気込みを語った。
(注1)核融合エネルギー開発振興法の第6条に基づき、核融合エネルギー研究開発に関する重要事項を審議するための官民合同委員会(委員長:科学技術情報通信部長官)
(注2)韓国核融合エネルギー研究所〔大田(テジョン)〕で、2008年から国家プロジェクトとして稼働。
(注3)人類初の核融合実験炉を実現しようとする超大型国際プロジェクトで、2025年運転開始を目指し、日本、欧州、米国、ロシア、韓国、中国、インドの7カ国・地域で進められている。
(橋爪直輝)
(韓国)
ビジネス短信 58b7bcacc70a9beb