欧州委の研究機関、「生態系総生産(GEP)」の適用可能性を評価
(EU)
ブリュッセル発
2024年06月07日
欧州委員会の共同研究センター(JRC)は5月27日、生態系サービスが経済にもたらす価値を貨幣価値に換算した「生態系総生産(GEP)」という概念をマクロ経済分析にどのように適用できるか説明する報告書を発表した(プレスリリース)。従来の経済発展の指標のGDPと併用し、意思決定過程で生態系サービスの価値を評価するためにGEPを適用することで、新しい政策の質が向上し、自然資本の管理改善が期待できるという。
作物の受粉や水の浄化といった生態系サービスは、あらゆる経済活動にとって重要だが、GDP指標では完全に評価されていない。政策評価にGEPを用いることで自然の貢献評価が可能となり、特定の政策が生態系に与える影響も評価することができる。特に自然を包括的に考慮した政策立案には、生態系が人々や社会にもたらす利益への貢献度を測る指標が必要だ。
実際にGEPを導入するには、データの入手可能性に関する技術的な課題や、生態系サービスの推定評価の不確実性などの課題がある。一方で、JRCは、シミュレーションではGEPが生態系サービスの価値をより現実的に示すことが分かったとしている。例えば、消費者の嗜好(しこう)が変化し、植物由来のタンパク質の消費が徐々に拡大するシナリオでは、EUの2030年のGDPは0.01%増の微増にとどまる一方、GEPは23億ユーロに相当する1.5%も上昇した。
JRCは今後、GEPの正確性と有用性をさらに高める方法を模索する。例えば、大規模で詳細なデータセットと接続することで、生態系サービスの供給機能を明確にし、GEPにより多くの生態系サービスの種類を含められる可能性がある。また、生物と人間による生産の関連性や、生態系の環境収容力への悪影響を考慮することで、GEP算出を精度の高いものにできる可能性があるとしている。
報告書は、中国政府が既にGEPを経済評価指標に取り入れている例などを挙げ、多国間でGEPを用いる場合には、国際的なトレードオフや国境を越えた政策の体系的な影響についての洞察も提供できるとしている。
(大中登紀子)
(EU)
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