米上院民主党議員団、バイデン政権に対中追加関税の維持・引き上げを要請
(米国、中国)
ニューヨーク発
2024年05月07日
米国連邦議会上院の民主党議員団(注1)は5月2日、ジョー・バイデン大統領およびキャサリン・タイ米国通商代表部(USTR)代表宛てに、1974年通商法301条に基づく中国原産品に対する追加関税(301条関税)の現状維持ないし引き上げを求める書簡を送付したと発表した。書簡は5月1日付で送付された。
書簡では、鉄鋼・太陽光発電製品・電気自動車(EV)などの産業分野で、中国が自国産業に補助金を提供することで過剰な生産能力を獲得し、意図的に低価格な製品を製造して市場を歪曲(わいきょく)していると指摘した。また、追加関税の賦課について「競争条件を平準化し、非市場経済国や不公正貿易による反競争的な慣行と闘うための重要な手段であり、今後も維持されなければならない」とその意義を強調した。301条関税の見直し内容については、「301条関税のいかなる削減も、勤勉な米国人よりも中国が競争上優位に立つことを可能にする」「米国の労働者に寄り添い、中国の責任を追及するために、301 条関税を維持または引き上げるよう強く求める」とした。
301条関税は、トランプ前政権が2018年7月以降に中国原産品に賦課した追加関税で、2024年5月現在も米国の関税分類番号(HTSコード)8桁で1万品目以上の幅広い品目に対して7.5~25%の追加関税を賦課している。USTRは賦課開始から4年を迎えた2022年9月に見直しを実施すること、および見直しが完了するまで賦課を継続することを発表したが、1年半以上が経過した現在も見直しは完了していない。ただし、タイUSTR代表は、2024年4月17日に開催された議会公聴会で「省庁間の作業は非常に進んだ段階にある。われわれは非常に近いうちに結論を出すと予想している」と述べ、早期の見直し完了を示唆している(2024年4月18日記事参照)。また、バイデン大統領は同日、鉄鋼・アルミニウムに対する301条関税の関税率を3倍に引き上げるよう検討することをUSTRに指示している(2024年4月18日記事参照)。
301条関税見直しの結果、追加関税・適用除外(注2)対象品目の範囲や、追加関税率にどの程度変更が加えられるのかなどが注目される。通商専門誌「インサイドUSトレード」(5月2日)は「ホワイトハウスは、選挙が行われる年に(301条)関税を見直すことが及ぼす政治的影響を見据えて、見直し結果の最終仕上げを行っている」と報じており、11月の米国大統領・議会選挙を意識した判断になると指摘している。最近の米国の世論調査では、調査対象者の半数が「中国の影響力抑止」を外交上の優先課題に認識していると回答するなど中国に対する世論は厳しい(2024年4月24日記事参照)。今回の書簡で提起されたように、301条関税の維持や引き上げの可能性は想定される一方、大幅な緩和ないし全面廃止の可能性は高くないとみられている。
(注1)上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務(ニューヨーク州)、シェロッド・ブラウン議員(オハイオ州)、ボブ・ケーシー議員(ペンシルベニア州)、タミー・ボールドウィン議員(ウィスコンシン州)、ジョン・フェッターマン議員(ペンシルベニア州)、ゲーリー・ピーターズ議員(ミシガン州)、デビー・スタベノウ議員(ミシガン州)の7人。
(注2)429品目については、2024年5月31日まで301条関税の適用除外措置が設けられている(2023年12月27日記事参照)。
(葛西泰介)
(米国、中国)
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