米アリゾナ州で人工妊娠中絶がほぼ全面禁止、トランプ氏は州別判断の立場維持

(米国)

ニューヨーク発

2024年04月12日

米国アリゾナ州の最高裁判所は4月9日、人工妊娠中絶に関して、妊婦の命を救う場合を除いて全面禁止し、中絶に関与した医療関係者を懲役刑で罰する同州の1864年の法律が適用PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)されるとの判決を下した。アリゾナ州では、妊娠15週目までは人工妊娠中絶が許可されていたが、「ロー対ウェイド」判決が破棄(2022年6月27日記事参照)されたことで、1864年の法律が適用されると判断した。ただし、判決では14日間の執行の猶予を認めており、州はさらに45日間はこの禁止を施行しないことに同意している、と報じられている。

米国主要メディアによると、米国では、妊婦の命を救う場合やレイプなどの理由を除き、人工妊娠中絶を全面禁止している州は現在14州(注)ある。全て共和党が優勢な州で、ここにアリゾナ州が加われば、初めて激戦州(スイングステートPDFファイル(642KB))が加わることになる。

そのほか、共和党が優勢なサウスカロライナ州と激戦州のジョージア州では、妊娠6週目より後の人工妊娠中絶をほぼ全面禁止している。フロリダ州では、これまで妊娠15週目までの人工妊娠中絶を合法としていたが、2024年5月1日から6週目までに変更される。全米で人工妊娠中絶を含むヘルスケアサービスを提供する非営利団体で、今回アリゾナ州の裁判で原告側となったプランド・ペアレントフッドは、女性は通常、妊娠6週目には妊娠に気づいていないことが多いことなどを理由に、6週目より後の人工妊娠中絶が禁止される場合、気づくのが早い人でも中絶できる期間は気づいてから実質2週間しかないとしている。そのためか、「6週目より後の禁止」を「ほぼ全面禁止」と同様に扱うメディアも少なくない。

人工妊娠中絶は大統領選挙の争点の1つになっており(2023年6月23日記事参照)、今回のアリゾナ州の判断が注目されそうだ。ドナルド・トランプ前大統領は2024年2月29日、米国メディアWABCの番組で、人工妊娠中絶に関して「州レベルの課題であり、連邦レベルの課題ではない」と発言しており(2024年3月26日記事参照)、アリゾナ州での判決の前日の4月8日にも、ソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に投稿した動画であらためて、「人工妊娠中絶に関しては、妊娠何週目という判断も含め、各州が判断すべきだ」と発言した。同動画ではまた、「ロー対ウェイド判決」を破棄した6人の判事を称賛し、「50年に及ぶ論争を経て、ついに(人工妊娠中絶に関する課題は)連邦の手を離れ、各州の市民の判断と投票によって決められることになったのは素晴らしい」とも述べた。米国主要メディアによると、トランプ氏は4月10日にも、アリゾナ州最高裁の判断は「行き過ぎだ」としつつ、11月の大統領選挙で再選されたとしても、全国的な禁止措置には署名しないと発言している。一方で、ジョー・バイデン大統領陣営は、トランプ氏のこれまでの行動からこの発言を「虚言だ」と批判した。

(注)アラバマ、アーカンソー、アイダホ、インディアナ、ケンタッキー、ルイジアナ、ミシシッピ、ミズーリ、ノースダコタ、オクラホマ、サウスダコタ、テネシー、テキサス、ウェストバージニアの14州。

(吉田奈津絵)

(米国)

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