米大手格付け会社ムーディーズ・インベスターズ、NYCBの長期債格付けをさらに4段階引き下げ

(米国)

ニューヨーク発

2024年03月06日

米国の大手格付け会社ムーディーズ・インベスターズは3月1日、米地銀ニューヨーク・コミュニティー・バンコープ(NYCB)の長期発行債格付けをBa2からB3に4段階引き下げると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同社はNYCBの長期債について、2月6日に2段階の引き下げ(注1)を行っており、既にジャンク債(注2)扱いとしていた。今後もさらなる引き下げの可能性を残している。

ムーディーズ・インベスターズは今回の判断要素として、(1)2月29日付でNYCBが「効果的ではない監督、リスク評価、モニタリングなどに起因して、融資に関する内部統制に重大な弱点を特定した」と発表するとともに、年次財務報告書の提出を遅らせるとした点、(2)2023年度第4四半期(2023年7~9月)の決算が修正され、赤字幅が大幅に拡大した点、(3)経営陣が交代した点を挙げている。これらはNYCBがガバナンス、監視、リスク管理、内部統制の面で大きな変革を行っていることを示しているものの、この効果が発揮されるまでには信用力に継続的なリスクが発生することを意味しており、預金者や投資家の信頼に悪影響を与える可能性があると判断し、引き下げに踏み切ったという。また、商業用不動産ローンの信用リスクや集合住宅向けローンの価格改定リスクのため、今後2年間でさらなる引当金増額が必要になる可能性があることや、金利高による資金調達コストの上昇も課題となると指摘した。

ムーディーズ以外にも、同じく大手格付け会社のフィッチ・レーティングスが同日、NYCBの長期債格付けをBBBからBBBマイナスへと1段階引き下げると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。引き下げ理由は、(1)2023年のシグネチャーバンクの預金買い取りに伴い、金融監督当局から引当金積み増しなどを求められるようになり、これによって資本/レバレッジスコアが低下すること、(2)商業用不動産や集合住宅融資に関する不確実性の増大により、NYCBの資産品質が低下していること、(3)資金調達と流動性の確保のために、今後さらに市場性資金への依存度が高まり、資金調達コストが上昇する可能性があることなどを挙げている。今のところ、フィッチの格付け上はジャンク債への転落を免れているものの、見通しは「ネガティブ」となっており、今後のさらなる引き下げの可能性が残されている。

商業用不動産を巡っては、連邦準備制度理事会(FRB)が3月1日に発表した金融政策レポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでも、商業用不動産ローンの質の低下や、商業用不動産への融資が集中している小規模な地方銀行やコミュニティーバンクの脆弱(ぜいじゃく)性などが指摘されているほか、FRBで銀行監督を担当するミッシェル・バー副議長が「商業用不動産を巡るリスクに細心の注意を払っている。商業用不動産融資での損失に対応できる十分な引当金と資本があるかを注視している」と語る(ブルームバーグ2月16日)など、当局も警戒感を高めている。

(注1)2月6日の引き下げ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますについては、(1)NYCBはもともと市場性資金調達による融資の依存度が高く、資金調達と流動性が比較的弱い、(2)主軸となっていた商業用不動産や集合住宅向け融資の収益性が悪化して予期せぬ重大な損失を計上している、(3)さらなる引当金やコンプライアンス費用の増加、資金調達コストの増加など収益性が悪化する可能性があることなどを理由に行われた。

(注2)投資不適格級債券のこと。ムーディーズではBa以下の債券、フィッチではBB以下の債券がこれに当たる。

(加藤翔一)

(米国)

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