スタートアップ・エコシステムへの大学の寄与に関する初の分析、ジェトロが報告書発表

(マレーシア)

クアラルンプール発

2024年03月13日

ジェトロは今般、「大学等を中心としたマレーシアのスタートアップ・エコシステムと活躍する若手起業家」と題する報告書を1月30日に公表した。マレーシアのスタートアップ支援エコシステム(注)は、ベンチャーキャピタル、大手企業、政府機関、大学など教育機関などで構成される。報告書では、スタートアップ孵化(ふか)を支援するプレーヤーとしての大学に着目し、その役割や大学発の起業ケースをとりまとめた。具体的には、マレーシア国内13大学の起業支援体制や特徴的な取り組みに加え、創業者が大学在学中または卒業後短期間で立ち上げたスタートアップ8社をケーススタディとして取り上げた。

求められる大学と産業界との連携強化

各大学や起業家への取材を通じて、特別カリキュラムの設置や資金面での支援も含め、起業支援自体は多くの大学で充実していることがうかがえる。報告書は、各大学における起業支援部門の特性、大学発スタートアップの累積数、主催するピッチイベントの概要、スタートアップ向け資金提供額、内外企業や政府機関との連携実績を紹介している。

ただ、スタートアップ・エコシステムにおけるアカデミアという観点では、大学自身、学生、政府、企業がそれぞれに問題を抱えていることも浮き彫りとなった。例えば、大学では、スタートアップ支援のための安定した資金確保が困難、起業カリキュラムが実践より理論寄りであること、産業界とのネットワーク不足などが課題。一方、大学生自身も、起業より学業に専念する傾向があり、起業を目指したとしても会計や法務などの実務知識の不足に直面してしまう。在学中に起業し、卒業後のフルタイムビジネスへの遷移に苦労するケースもある。これらの問題を解消するには、起業カリキュラムに民間から講師を招聘(しょうへい)する例も既に多く見られる中、大学と産業界とのさらなる連携や協働が重要との指摘が多くの関係者からなされた。

とりわけ日本企業との連携強化の観点からは、大学と日本企業による共同ファンドの設立、知的財産権(IP)商業化の支援強化、日本企業による東南アジア市場の玄関口としてのマレーシア活用、などが関係者からの具体的提言として報告書中で紹介されている。例えば、マルチメディア大学(MMU)の支援も受け、DXや自動化のためのソフトウエア開発を展開するレッドスクエア・ソフトウェア・テクノロジーズ(RedSquare Software Technologies)の創業者ジャスティン・ウォン氏は、「日本企業が東南アジアで各種パイロットプロジェクトを実施するに当たって、マレーシアのスタートアップを活用する余地がある」と、協業の可能性を示唆した。

(注)マレーシア政府は、2021年に発表した「マイデジタル」政策の下、5社のユニコーン含む5,000社のスタートアップ創業を支援する目標を掲げる。2023年末時点のマレーシアのスタートアップ数は約300社と(報告書6ページ)、目標達成に向けた道のりは厳しく、特に大型の資金調達機会に乏しい点が課題視されている(2024年3月4日付地域・分析レポート参照)。

(アンドリュー謝克耀、吾郷伊都子)

(マレーシア)

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