欧州人民党グループ、フォン・デア・ライエン委員長を次期委員長の筆頭候補に選出

(EU)

ブリュッセル発

2024年03月15日

欧州人民党グループ(EPP、注1)は3月7日、6月に実施される5年に1度の欧州議会選挙を前に、党大会をブカレストで開催。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長について、次期委員長任命に向けた「筆頭候補者プロセス」(注2)でのEPP候補に選出した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。現地報道は、欧州議会の最大会派EPPの支持を受けたことで、フォン・デア・ライエン委員長は次期委員長の最有力候補としての地位を固めたとしている。

EPPは同日、次期選挙に向けた選挙公約PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)も採択した。防衛、移民対策、農家支援などの強化を掲げ、躍進が予想される極右を強く意識した内容となった。注目される環境政策については、フォン・デア・ライエン委員長が看板政策として掲げる欧州グリーン・ディールの継続を支持。温室効果ガス(GHG)排出の2030年までの55%削減(1990年比)と2050年までの気候中立の実現(2021年4月22日記事参照)に責任をもって取り組むとした。同時に、強いEU経済があってこそ環境保護は可能になると述べ、EU産業界の競争力強化を強調。今後、欧州グリーン・ディール関連法を実施する中で、EU産業界の脱炭素化に向けた財政面の支援や、クリーン技術の域内生産支援策「グリーン・ディール産業計画」(2023年12月15日付地域・分析レポート参照)を念頭に、「メード・イン・ヨーロッパ」を重視する姿勢を鮮明にした。

GHG排出削減に関しては、目標が達成されるのであれば、利用する技術は問わないとする技術的中立性の原則堅持を主張。自動車については、代替燃料や水素技術の開発を支持した。背景には、2035年以降の内燃機関を搭載した新車の販売禁止(2023年3月30日記事参照)への根強い反発があるとみられる。現地報道によると、選挙公約には当初、販売禁止に関する規則をできる限り早期に見直すとの文言が含まれていたが、最終的にこの文言は削除された。

(注1)EPPは、各加盟国の中道右派、キリスト教民主主義政党からなる。なお、欧州議会では、加盟国ごとではなく、政党グループごとに活動する。

(注2)欧州委委員長の選出について、EU条約は、(1)欧州議会選挙の結果を考慮して、欧州理事会(EU首脳会議)が候補者を欧州議会に提案、(2)欧州議会が支持した場合は候補者が委員長に選出されると規定する。これに対して、欧州議会は選挙結果を考慮する手段として、条約上に規定はないものの、筆頭候補者プロセスの採用を求めている。筆頭候補者プロセスでは、(1)各政党グループが欧州委員長の候補者として筆頭候補者を指名して選挙戦を行い、(2)欧州議会選挙で最も多くの議席を得た政党グループの筆頭候補者が欧州理事会によって候補者として欧州議会に提案される。前回選挙ではフォン・デア・ライエン氏は筆頭候補者ではなく、同プロセスを経ずに委員長に任命された(2019年7月17日記事参照)。

(吉沼啓介)

(EU)

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