米国際貿易委、ファインデニールのポリエステル短繊維のセーフガード調査を開始

(米国)

ニューヨーク発

2024年03月13日

米国国際貿易委員会(ITC)は3月11日、ファインデニールのポリエステル短繊維(PSF)のセーフガード調査を2月28日から開始したとWTOに通知外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。セーフガード措置は、アンチダンピング(AD)など他の貿易救済措置とは異なり、原則として全ての貿易相手国からの輸入が対象になる。

セーフガードは、ある製品の輸入が急増して輸入国の産業に重大な損害を与えている場合に、当該輸入国政府が発動する関税引き上げ、輸入数量制限の措置で、WTOのセーフガード協定で認められている。米国内法では、1974年通商協定法201条で、ITCによる国内産業への重大な損害、またはその恐れの存在の認定(損害認定)に基づき、一定期間(原則4年、最長8年)に限り、全ての輸入国(注1)に対して特定産品にかかる関税の引き上げや関税割当(TRQ)などのセーフガード措置を発動する権限を大統領に与えている(注2)。

WTOが公開した通知書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、今回のセーフガード調査はファインデニールPSFを製造しているファイバーインダストリーズ(ダーリンファイバー)、台湾の南亜プラスチックの米国子会社、サンファイバーの3社の要請に基づいて開始された。ファインデニールPSFは衣類やベッドリネンなどの繊維製品、紙おむつ、コーヒーフィルターなどに使われるという。請願書では、同製品の輸入量が2019年の1億9,520万ポンドから2023年に2億8,230万ポンドと44.6%増加し、その間、米国内生産量に対する輸入量の比率が増加したことから、同製品の輸入は絶対値でも、米国の生産と消費に対する相対値でも、拡大しているとした。その上で、輸入の急増が以下のような米国内産業への重大な損害を与え、またはその恐れがあるとしている。

  • 米国市場での輸入品のシェアが大幅に上昇したことによる米国内生産量の急減、米国の生産施設の深刻な閉鎖や休止
  • 低価格の輸入品によって米国の生産者による販売が減少した結果、米国内施設の稼働率の著しい低下
  • 2019~2023年の米国内産業の業績悪化
  • 過去5年間の米国企業の市場シェア低下による米国内産業の雇用への悪影響

ITCは、この調査に関する公聴会を、重大な損害の認定と救済措置の検討の各段階で別々に予定している。重大な損害に関する公聴会は6月4日に開催し、損害認定は7月9日までに行う。ITCが重大な損害について肯定的な判断をした場合、または重大な損害が認められるか否かの意見が同程度に分かれた場合、救済措置に関する公聴会を7月23日に開催する(注3)。ITCは調査結果を、請願書を受け付けてから180日以内に大統領へ提出する必要があり、今回は8月26日が期限となる。大統領はITCからの報告を受領後60日以内にセーフガード措置の内容(実施の有無を含む)を決定し、決定後15日以内に措置を実施する必要がある。

ジョー・バイデン大統領は2022年2月に、トランプ前政権が発動した太陽光発電製品に対するセーフガードの4年間の延長を決めている(2022年2月7日記事参照)。仮に今回発動が決まれば、それ以来のセーフガード措置の発動となる。

(注1)WTOのセーフガード協定第9条は、一定の条件を満たす開発途上国からの輸入に対して、セーフガード措置の適用除外とすることを定めている。また、米国が締結する自由貿易協定(FTA)には、FTA締結国からの輸入が米国内産業の重大な損害に大きく寄与していない場合に措置の適用対象外とする規定が盛り込まれていることもある。

(注2)大統領が取り得る措置は1974年通商協定法203条(a)(3)項で規定されている。これらの措置には、関税の賦課・引き上げ、関税割当(TRQ)・輸入割当(IQ)の実施のほか、外国との通商交渉による解決や、米国内の産業構造調整に向けた援助措置の実施などが含まれる。

(注3)損害認定の公聴会の証言希望者は5月24日までに、救済措置の公聴会の証言希望者は7月17日までに申し込む必要がある。

(赤平大寿)

(米国)

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