新たな組合費の徴収開始、法律事務所に企業側の留意点を聞く

(ブラジル)

サンパウロ発

2024年03月06日

ブラジル連邦最高裁判所は2023年9月、労働者組合費の強制的徴収を合憲とする決定をし、これに基づいて、労働組合による「新たな組合費(組合支援金)」の徴収が始まった。組合支援金は、労働者の反対がなければ、企業に源泉徴収を行う義務が生じる。当地の労働法に詳しい佐藤法律事務所のジルセウ佐藤弁護士に、今回の組合支援金徴収に関する概要と、企業が注意すべきポイントなどについて話を聞いた。

ジルセウ佐藤弁護士によると、組合費(Contribuição Sindical)は2017年11月の労働法改正により、従来「義務」だったものが「任意」となった結果、労働組合の収入が2017~2022年の5年間で98%減少し、弱体化が進んだという。こうした中、2023年9月に連邦最高裁判所は「組合協約で組合支援金(Contribuição Sindical Assistencial)を設定し、支払いに反対する労働者の権利を保障しつつ、非会員を含む対象業界の全ての労働者から徴収することは合憲」と決定した。つまり、厳密には異なるものの<「従来の組合費の復活」と受け止められている。

今回の決定により、労働組合は集会で決定した場合、対象とする業界の全ての労働者から組合支援金を徴収することが可能となった。従来の組合費は毎年3月に1日分の給与相当額だったのに対し、組合支援金には固定額がなく、集会で決定した金額を決定した頻度で徴収することとなった。そのため、中には法外な金額を設定した労働組合も出ているという。

組合支援金の支払いでは、労働者は支払い反対の意思を示すことが可能だ。労働者は、組合協約が規定する期限内に反対レター(Carta de Oposição)を組合事務局に届けるとともに、その証明を企業に提出することで、組合支援金の天引きを防ぐことが可能となる。ジルセウ佐藤弁護士によると、多くの労働者が反対レターを出す一方で、労働組合が同レターの受領を渋ることによる混乱も予想されるという。

また、ジルセウ佐藤弁護士は、組合支援金の設定に伴い、企業側も注意を要すると指摘する。1つは、従来の組合費は労働者の承諾なくしては源泉徴収できないのに対し、組合支援金については、企業側は労働者の反対がなければ「源泉徴収する義務」が生じるため、認識を改める必要があること。もう1つは、例えば、労働者の反対レター提出が円滑に進まずに組合支援金の徴収が滞った場合には、労働組合から企業に対して、労働者に代わって組合支援金の支払いを求める動きも想定されるということ。既に労働組合から組合員に対し、組合支援金の金額提示が行われているケースも多く、それに伴う混乱が生じ始めているという。組合支援金については、労働者、企業ともに大きな影響が生じ得るテーマなことから、今後もその動向を注視する必要がありそうだ。

(井上徹哉)

(ブラジル)

ビジネス短信 2f31688c0429cd39