米財務省とIRS、クリーン水素製造税額控除に関する規則案を公表

(米国)

ニューヨーク発

2024年01月04日

米国財務省と内国歳入庁(IRS)は12月22日、インフレ削減法(IRA)に基づくクリーン水素製造税額控除に関する規則案を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同税額控除は、環境汚染を最小限に抑えたクリーン水素の製造をより経済的に競争力のあるものにするとともに、米国のクリーン水素産業の発展を加速させることを目的とする。

クリーン水素製造税額控除は、水素製造時における温室効果ガス(GHG)のライフサイクル排出量に応じ、製造された水素1キログラム当たり0.6ドル~3ドルの範囲で付与される。税額控除は、2033年までに建設が開始されるプロジェクトに対して、水素製造施設が稼働した日から10年間利用可能だ。

規則案では、税額控除を請求する水素製造者が購入する、エネルギー属性証明書(EAC)への記載が必要な3つの基準が次のとおり示された。これら基準は、環境団体などからの要請を反映したものとみられる。

  1. クリーンな新規電力:水素施設が稼働して3年以内に商業運転を開始したクリーンな発電所は、クリーンな新規電源とみなす。発電機の容量追加による発電も同様。
  2. 供給可能なクリーン電力:クリーンな電力は、水素製造者と同じ地域から供給される必要がある。
  3. タイムマッチング:税額控除を請求する電解槽の稼働と(上記クリーン電力の)発電を同じ時間帯に行う必要がある。移行期間として、時間単位の追跡システムの普及が見込まれる2028年までは1年単位の一致を許可。

規則案の公表を受け、企業からは、水素製造に新たな電力設備を使用するとの要件はプロジェクトの開発や立地を制限する、といった声が早くも上がっている。時間ごとに水素製造とクリーンな電力の使用を一致させる規定が2028年から適用されることについても、多くの企業や団体にとっては想定を上回る早期となったもようだ(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版2023年12月22日)。財務省とIRSは、今回の規則案を12月26日に官報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに掲載した。掲載後60日間のパブリックコメントを受け付けており、関連企業や団体は最終規則の発行前にコメントを提出することが可能としている。

今回の規則案発表に際し、バイデン政権でクリーンエネルギーのイノベーションと実装を担当するジョン・ポデスタ大統領上級顧問は「IRAの水素税額控除は、重工業や重量物の輸送など、脱炭素化が困難なセクターからの排出を削減する上で重要な、クリーン水素産業の構築に役立つ」とのコメントを寄せた。一方で、産業界からは規則案の内容に反発が出ており、エアバスやゼネラルモーターズ(GM)、燃料電池メーカーのプラグパワーなどが加盟する燃料電池・水素エネルギー協会のフランク・ウォラク社長兼最高経営責任者(CEO)は「これらの規制や要件は、自国産業、投資促進、製造・技術に係る米国のリーダーシップを不必要に抑制する」との声明を規則案と同日に発表した。規則案の策定を機に、再生エネルギー分野で太陽光や風力発電に比べ遅れが目立つ水素利用が進むのか、今後の行方が注目される。

(米山洋)

(米国)

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