ジョホール・シンガポール経済特区(JS-SEZ)開発に向け覚書を締結、経済連携強化へ

(マレーシア、シンガポール)

クアラルンプール発

2024年01月15日

マレーシアのラフィジ・ラムリ経済相とシンガポールのガン・キムヨン貿易産業相は1月11日、ジョホール・シンガポール経済特別区(JS-SEZ)の共同開発に関する覚書を締結した(両国共同声明、シンガポール貿易産業省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。アンワル・イブラヒム首相とリー・シェンロン首相もそれぞれ立ち会った。両国は相互に第2位の貿易相手国であり、マレーシアにとってシンガポールは中国に次ぐ投資国で、対内直接投資総額の2割強を占める。また、シンガポールと国境を接するジョホール州では、2022年上期の製造業における対内直接投資のうち7割をシンガポールからの投資が占める。JS-SEZにより、両国間の貿易拡大や人の流れの促進(注)、投資を後押しするエコシステムの発展が期待される。

JS-SEZ構想は、2023年5月にラフィジ経済相が提案し、同7月には両国政府で検討に向けたタスクフォースが設置され、10月には両国首相があらためて特区の共同開発に合意を表明していた。今回の共同声明は、JS-SEZ開発に向けた具体的取り組みとして、(1)ビジネス投資サービスセンターの設置とシンガポールからの投資に関する許認可の迅速化、(2)QRコードを使った出入国管理の導入、(3)通関手続きのデジタル化、(4)投資フォーラム開催、(5)特区内の再生可能エネルギー利用で協力、(6)職業訓練や実習機会提供、(7)貿易投資促進活動の共同推進、を挙げた。共同声明に明記はないものの、JS-SEZが誘致に重きを置く産業として、電気電子、金融、ヘルスケア、ビジネス関連サービスなどが報じられている。

イスカンダル・マレーシアに再注目

各種報道によると、先にジョホール州政府は、経済開発地域「イスカンダル・マレーシア」(以下、イスカンダル)をシンガポールとの経済特区とする提案を、マレーシア政府に行っていた。ジョホール州南部のイスカンダルは総敷地面積2,217平方キロに及び、重工業地域のパシルグダンや州都ジョホールバル、イスカンダル・プテリなどが含まれる。ジョホール州投資貿易消費者問題委員会のリー・ティンハン委員長は「イスカンダルはSEZとなる準備が整っている」と自信を示しつつ、1月11日には、JS-SEZの詳細を盛り込んだ最終合意は2024年内にも締結されると見込んだ。

なお、同地域を管轄するイスカンダル地域開発庁(IRDA)は1月9日、2030年までの投資残高目標を6,360億リンギ(19兆7,160億円、1リンギ=約31円)に設定した。IRDAのバドルル・ヒシャム・カシム最高経営責任者(CEO)によると、2006年の経済開発計画始動以降、2023年9月までの投資残高は4,095億リンギに上り、2025 年の目標額だった3,830億リンギを2023年2月時点で既に達成した。バドルルCEOは「向こう7年間で新目標も達成できる」と確信し、JS-SEZもイスカンダルへの投資を促す追い風になると期待を示した。イスカンダルへの2023年1~9月の投資認可額は336億リンギで、データセンターを含むビジネスサービス向けが224億リンギ、製造業向けが77億リンギだった。

一方、JS-SEZ締結の共同声明では、特区の対象地域や具体的な優遇措置には触れておらず、イスカンダル全体を特区に取り込むかどうかも含め、今後の詳細開示が待たれる。

(注)両国首相は覚書締結に先立ち、ジョホール州ジョホールバルとシンガポールを結ぶ高速輸送システム(RTS)リンクの工事現場で、海上高架橋の完成式典に参加。2023年末時点でのRTSリンクの工事進捗は65%で、全面開通すれば約5分で両国を結び、1時間当たり最大1万人を運搬できる見込みだ。完成は2026年末の予定。

(吾郷伊都子)

(マレーシア、シンガポール)

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