EU、人材不足対応に向けた単一許可指令の改正案で政治合意

(EU)

ブリュッセル発

2024年01月04日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は12月20日、EU域外からスキルや才能を持った人材を呼び込み、域内の競争力強化ならびに平等な労働条件などを整える単一許可指令の改正案に関し、暫定的な政治合意に達したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

単一許可指令は、EU加盟国以外の国籍者が就労目的でEU域外から加盟国に移住する際の申請手続きを簡略化するために、労働許可と滞在許可を合わせた単一許可の申請手続きを導入するもので、2011年12月に施行した。改正案は、EU域内での人材不足に対応すべく、申請手続きをより迅速かつ容易にするため、欧州委員会が2022年4月27日に提案した(2022年5月6日記事参照)。今後、EU理事会と欧州議会による正式な採択を経て施行される見込み。施行後、各加盟国は2年以内に国内法化する必要がある。なお、現時点で合意された法文案は公開されていない。

今回合意した内容はおおむね欧州委案に沿った内容となった。

  • 申請手続き:現行指令では域外からの申請に限っているが、申請者が加盟国に合法的に滞在している場合は、当該加盟国からの申請も可能とした。
  • 審査期間の短縮:現行指令では4カ月以内と定めているものの、長期化が問題となっている。合意では審査期間を3カ月以内に短縮した上で、この期間に労働市場の状況の確認期間を含むことを明記した。
  • 転職の可能性確保:単一許可保持者の権利強化として、単一許可の有効期限内であれば、発給時の雇用主以外への転職が認められるとした。加盟国は、発給時の雇用主のもとで単一許可保持者が就労すべき最低期間を設定することもできる。単一許可保持者は許可有効期限内に失業した場合も、次の就職先を探す期間として滞在が認められる。単一許可を取得してから2年以内の者は失業から最長3カ月、2年以上の者は最長6カ月滞在できる。欧州議会は9カ月を提案していたが、より短い期間での合意となった。

このほか、不平等な取り扱いに関する苦情申し立て制度や違反した雇用主に対する罰則規定も設けられた。

2019年のEU統計局(ユーロスタット)のデータによると、単一許可発行件数は300万弱に上るが、新規申請は4割にとどまっている。EU域内では失業率は低水準が続く一方、欠員率は倍増しており、欧州委が人材不足の課題に対応するため「EU人材プール」(2023年11月21日記事参照)を発表するなど、域外からスキル、才能を持った人材をいかに引き付けられるかが大きな課題となっている。

(薮中愛子)

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