環境課題解決に取り組むスタートアップ、日本産ホタテの代替加工に協力の意向

(メキシコ)

メキシコ発

2024年01月16日

ジェトロは1月9日、米国との国境都市のメキシコ・バハカリフォルニア州の州都メヒカリ市に拠点を構えるスタートアップ「バイオブレーク・インダストリーズ(Biobreak Industries、以下BI)」を訪問し、メキシコの社会環境課題解決に向けた同社の取り組みを取材した。

ジェトロは、エンセナダにおいて日本産ホタテの殻むき加工を行い、新しい付加価値を持つ米国輸出向け商品の開発と、新たなサプライチェーンの構築に向けて支援を行っている(2023年11月14日記事参照)。しかし、エンセナダの水産加工企業からは、ホタテ殻むき後に除かれる貝殻の処理方法につき、当地で伝統的に養殖されているカキと同様の環境問題につながる可能性への懸念が示されていた。この課題を解決するために、BIの最高経営責任者(CEO)を務めるダニエル・キウィス氏は同社のノウハウ(後述)を生かして、ホタテの貝殻を生分解性プラスチック製造用の原料として活用するという、協力の意向を示した。

BIは2018年創業のスタートアップで、食品加工業で産業廃棄物として廃棄せざるを得ない資材を原材料として回収し、生分解性プラスチック製品として生まれ変わらせるビジネススキームを持つ。創業6年ながら、3年目には環境問題となっていたカキの廃棄貝殻を再利用したプラスチックカトラリーを製造し、地元のスーパーマーケットに卸し始めるなど、明確な目的とスピード感を持ってビジネスを行っている。

写真 バイオブレーク・インダストリーズ外観(ジェトロ撮影)

バイオブレーク・インダストリーズ外観(ジェトロ撮影)

同社の製造ラインでの主な原料は、カキ貝殻やウニの殻、コーヒー抽出後の豆のカス、テキーラ製造用のアガベ残渣(ざんさ)など、すべて産業廃棄物として処理方法が問題となっていたものだ。例えば、バハカリフォルニア州の水産加工業集積地のエンセナダ市周辺では、伝統的にカキ養殖が盛んで、メキシコ国内のみならず米国などへも加工されて輸出されている。しかし、加工時に除かれる貝殻は行き場を失い投棄されていたため、汚臭の原因となっていたほか、周囲の環境変化の要因となっていた。BIは、同州水産養殖庁(SEPESCA)の協力のもと、堆積した貝殻の一部を回収し、自社工場において粒子化後、汎用(はんよう)できるレジンペレットに成形し、触媒と化合させて多種の生分解性プラスチック製品を製造した。これにより、廃棄貝殻と非生分解性製品の減量に寄与している。

写真 環境問題となっている廃棄貝殻の山(バイオブレーク・インダストリーズ提供)

環境問題となっている廃棄貝殻の山(バイオブレーク・インダストリーズ提供)

BIの生分解性プラスチック製品の多くは、求められる強度に応じて廃棄原料の量を調整するものの、多くが商品重量の約3割を占め、11年半でバクテリアによって分解される。こうした製品は、ESG(環境・社会・ガバナンス)を意識する大企業を中心に採用されており、大手スーパーマーケットのウォルマートでは簡易カトラリーコーナーで販売されている。2024年からは、現地のコストコの精肉コーナーのトレイとして利用されることが予定されている。

写真 ウニの殻を3割配合した生分解性プラスチック容器(ジェトロ撮影)

ウニの殻を3割配合した生分解性プラスチック容器(ジェトロ撮影)

写真 現地のコストコで利用予定のオートミールのカスを配合したトレイ(ジェトロ撮影)

現地のコストコで利用予定のオートミールのカスを配合したトレイ(ジェトロ撮影)

(志賀大祐)

(メキシコ)

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