モンゴル初の系統用大容量蓄電池が稼働

(モンゴル、ロシア)

北京発

2023年12月28日

モンゴルは電力需要のピーク時にロシアから電力を輸入しており、モンゴルのエネルギー安全保障や外貨流出などの課題となっている(注1)。モンゴル政府は「新復興政策」における「エネルギーの復興」(2022年11月10日記事参照)として、「中央電力系統に160メガワット時(MWh)の容量の系統用大容量蓄電池(注2)を稼働させ、ピークカットを可能にする」という目標を掲げている。その一環として、モンゴル初となる系統用大容量蓄電池が12月9日にウランバートル市郊外のソンギノ変電所で稼働し、試運転を開始した(「Montsame」12月10日)。

系統用大容量蓄電池は、昼間や深夜の余剰電力を蓄電池に充電し、電力需要のピークとなる午後5時~午後10時(注3)の間に蓄電池から放電し、電力系統に供給するシステムだ。同施設の定格出力は80MW、蓄電容量は200MWhで、アジア開発銀行の1億ドルの融資と300万ドルの無償援助により、中国の江蘇中天科技と中天儲能科技の共同コンソーシアムが8,090万ドルのターンキー契約で受注し、ドイツのRWE Technology Internationalが運用保守にかかわるコンサルティングを行うことで、2022年8月に着工していた。

エネルギー省は、同施設の稼働により、年間5万8,500MWhのピークカットと輸入電力の削減が可能になるとともに、再生可能エネルギーの余剰電力を吸収して系統の効率を上げ、系統で生じる急激な負荷変動、周波数変動に対応し、発電所の故障時の大規模停電を予防するなど電力系統の安定性に寄与するとしている。また、火力発電所の負担を軽減することで、毎年直接的に4万6,800トン、2030年には間接的効果も含め毎年84万2,000トンの温室効果ガス(GHG)を削減できる見込みだ。さらに、現地メディアによると、ロシアとの輸入電力の契約容量を30MW下げることで毎月9億トゥグルク(約3,780万円、1トゥグルク=約0.042円)節約できるという(「ikon.mn」12月11日)。

他方で、同施設の稼働だけでは不足する電力を全てカバーできないため、エネルギー省は各家庭に対し、午後5時~午後10時の間は電気ストーブを使わない(注4)などの節電を呼びかけるキャンペーンを11月28日から実施している。

(注1)モンゴルは2022年度にロシアから電力を65万3,200MWh輸入し、その対価として5,178万ドルを支払った。これはモンゴルの年間の総電力供給の6.4%に相当する。ロシアのエネルギー輸出会社インターRAOは、2023年10月1日からモンゴル、中国、アゼルバイジャンなどロシアから電力を輸入している国々に対し、電力価格を4~7%値上げすることを通知しており(「ikon.mn」10月4日)、モンゴルにとっては負担増が懸念されていた。

(注2)同様の施設の名称は、日本では系統用蓄電池、系統直付け蓄電池などさまざまな名称で呼ばれている。

(注3)モンゴルでは、冬場の夕食の支度で電熱調理器やIH調理器を使う午後5時~午後10時が電力需要のピークとなっている。

(注4)ウランバートル市のゲル地区では、冬期に豆炭ストーブを暖房・炊事に使っていることが市内の大気汚染の原因になっており、政府は大気汚染対策としてゲル地区に電熱調理器や電気ストーブを普及させ、深夜にはゲル地区の電力料金を割引、一部無料にすることで、夜間の暖房に豆炭ではなく電気ストーブの使用を推奨し、大気汚染を減らす政策も同時に行ってきた。この政策は、バガノール石炭火力発電所が建設されることが前提となっていた(「iToim.mn」2017年1月11日)。しかし、同発電所は現在も建設されていない。

(藤井一範)

(モンゴル、ロシア)

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