日邦産業、海外取引でCPTPPや日タイEPAを活用

(日本、ASEAN、メキシコ)

調査部国際経済課

2023年12月15日

日邦産業(本社:愛知県名古屋市)は、主にエレクトロニクス、モビリティ、医療・精密関連部品の製造、販売を行う企業で、メーカーと商社の2つの機能を持つ。同社は、環太平洋地域に6つの生産拠点と7つの営業拠点を持ち、国内における海外取引の売上高は、全体の10%程度を占める。経済連携協定(EPA)の利活用状況について、EPA関連手続きの管理担当者に話を聞いた(2023年11月2日)。概要は以下のとおり。

幅広い協定を利用

同社のEPA利用は、(1)自社の直接輸出取引で利用するケースと、(2)日本国内の納品先による輸出のためにサプライヤー証明書(注1)の調査依頼を受けるケース、の2つがある。件数ベースでは、(2)が全体の約8割を占める。(1)は、日タイEPA、日ベトナムEPA、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)の3つが主なもので、(2)は、それらに加え、日EUEPAや日メキシコEPAなどの利用があるという。

担当者によれば、EPAの利用にあたっては手続きに係るコストと関税削減などの効果を比較検討しながら、適宜利用の有無を判断しているという。例えば、対メキシコ輸出において、従来は日メキシコEPA(2012年発効)を利用していたところ、2018年に発効したCPTPPであれば還付の事後申告が可能(注2)であることをメリットと考え、利用協定を切り替えた。また、自社輸出におけるEPA利用にあたっては、関税分類変更基準(CTC)により原産性が満たせる場合に限定する社内基準を設けることで、原産性の確認に係るコストを削減している。

協定利用によるメリットの共通認識が課題

EPA利用に係る手続きにおいて、社内の電子申請ツールの活用やサプライヤーなどの社外との書類のやり取りは、民間企業が開発・運営するEPA専用のクラウドシステムを利用することで、工数の削減にも取り組む。社内の人員体制は、EPA担当者を管理部門に2人、営業部門に2人配置しているほか、年に一度はEPAに特化した社内勉強会を開催し、社内のEPA活用ノウハウの向上も目指す。

今後の課題について、担当者は「EPA利用は原産性調査や検認に備えた書類の管理といった事務コストがかかり、関税削減のメリットについて社内や取引先との間での共通認識を高めたい」と述べた。具体的な関税削減額を把握することも含め、引き続きEPA利用に必要な社内体制の構築に取り組む方針だ。

(注1)輸出者はEPA利用にあたって、輸出品やその部品・原材料の生産者に対して、当該品の原産性を証明する資料(通称:サプライヤー証明書)の提出を求めることができる。

(注2)CPTPPでは、輸入時に関税の特恵待遇を要求しなかった場合でも、輸入を行った日から1年以内であれば、事後申告に基づいて実際に払った関税額とCPTPP税率に基づく関税額の差額の還付を受けることができる(TPP11解説書のP.121参照PDFファイル(14.3MB))。

(大滝泰史、加藤遥平)

(日本、ASEAN、メキシコ)

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