WTO、電子商取引交渉の一部で実質的妥結を発表、残りは協議継続
(日本、オーストラリア、シンガポール、米国、中国、韓国、世界)
調査部国際経済課
2023年12月27日
日本政府は12月20日、WTOメンバーのうちの有志国で進めるデジタル貿易ルールの交渉枠組みの電子商取引共同声明イニシアチブ(JSI、注1)交渉の一部について、シンガポール、オーストラリア両政府と共同で、実質的妥結を発表した。3カ国は同JSIの共同議長国を務め、欧米主要国や中国、韓国を含む90カ国・地域が参加する交渉を主導してきた(注2)。
実質的妥結に至ったのは、デジタル貿易ルールに関する以下の13条文。なお、条文の具体的な文言は公表されていない。
- 電子認証および電子署名
- 電子契約
- 貿易に関わる文書の電子化
- 政府の公開されたデータ
- オンラインの消費者保護
- 要求されていない商業上の電子メッセージ
- 透明性
- 電子的な取引の枠組み
- サイバーセキュリティー
- 開かれたインターネットアクセス
- 電子インボイス
- シングルウィンドウ
- 個人情報の保護
交渉参加国・地域は残された交渉を2024年に妥結するよう取り組む方針だ。妥結に達していない条文のうち、電子的送信に関する関税や電子決済、暗号法を使用する情報通信技術製品に関する条文などを継続して交渉する。
他方、越境データフローやデータローカライゼーション、ソースコードなどの困難な提案は、「異なるアプローチや機微が残存するため、議論にさらに多くの時間を要する」との見方を示した。これら提案については、米国政府が支持を撤回したことが、米国の通商政策の転換として国内外で反響を呼んでいる(2023年10月30日記事参照)。
(注1)2017年12月の第11回WTO閣僚会議(MC11)で70カ国が署名した共同声明に基づいて交渉が立ち上げられたため、「共同声明イニシアチブ」と呼ばれる。
(注2)2023年10月23日時点。JSI交渉は、2019年1月の71カ国・地域で開始し、交渉の過程で参加を増やした。WTOによると、90カ国・地域が世界貿易の90%以上を構成するとしている。
(藪恭兵)
(日本、オーストラリア、シンガポール、米国、中国、韓国、世界)
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