EU、デジタル化や循環型経済に対応の製造物責任指令案で政治合意

(EU)

ブリュッセル発

2023年12月22日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は12月14日、デジタル化や循環型経済に対応した新たな製造物責任指令案に関して政治合意に達したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。デジタル製品や改造済み製品に対する製造物責任の所在を明確にするとともに、消費者が適切な補償を得やすくすることを目的としている。今回の法案は、1985年に施行された現行の製造物責任指令に置き換えるべく、欧州委員会が2022年9月に提案したものだ(2022年9月30日記事参照)。今回の合意により、同法案は両機関による正式な採択を経て施行され、加盟国による国内法への置き換えの後、2026年から適用される見込み。なお、合意された法文案は現時点で公開されていない。

まず、法案の適用対象に関して、デジタルファイルやソフトウエアを含めることで合意した。ただし、商業活動外として開発、提供される無償のオープンソースソフトウエアは適用外となる。

製造物責任の所在については、消費者は欠陥のある製造物により被害を被った場合に、原則としてEU域内の事業者に対して損害賠償請求をすることを可能にすべく、域内の事業者のいずれかが製造物責任を負うことを明確にした。域内の製造事業者が製造物責任を負うことを基本とした上で、製造事業者がEU域外国の事業者の場合には、輸入事業者あるいは製造事業者の認定代理人が製造物責任を負う。いずれの事業者も域内にいない場合には、製品の保管・梱包(こんぽう)・発送などを行う事業者が製造物責任を負う。また、オンラインプラットフォーム事業者あるいはオンラインプラットフォーム事業者が管理する出店者が販売する製品に関しては、製造事業者などいずれの事業者も特定できない場合、オンラインプラットフォーム事業者が製造物責任を負う。循環型経済に対応すべく、元の製造事業者の管理外で製品を実質的に改造した上で販売する事業者についても、改造済み製品の製造物責任を負う。

このほか、被害者の実効的な救済を確保するために、一定の条件で被害者側の立証責任を緩和することでも合意した。技術的複雑性により製品の欠陥あるいは欠陥と損害の因果関係の立証が過度に困難な場合、被害者が一定程度立証していれば、裁判所は製品の欠陥あるいは欠陥と損害の因果関係を推定することができる。また、被害者は、製造事業者に対する製品の欠陥あるいは欠陥と損害の因果関係の立証に「必要かつ相応な」証拠の開示命令を裁判所に求めることができる。補償対象となる損害には、人身損害には医学的に認定された精神的なダメージが、物損にはデータ(業務目的外で使用されるものに限定)の破壊または修復不能な破損がそれぞれ含まれる。

(吉沼啓介)

(EU)

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