オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)、2050年ネットゼロ達成に関するレポートを発表

(オーストラリア)

シドニー発

2023年12月14日

オーストラリア連邦科学産業研究機構(以下、CSIRO)は12月1日、「ネットゼロエミッションへの道 - 迅速な脱炭素化達成のためのオーストラリアの視点外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」と題するレポートを発表した。本レポートは、オーストラリアが2050年までにネットゼロエミッションを達成するための道筋を示し、国内の産業界、政府などに対して提言を行うものだ。特に国内で温室効果ガス(GHG)の排出量が多い産業である電力、ビル、輸送、重工業(鉄鋼、セメント、アルミニウムなど)、農業部門などに特化して分析している。CSIROは、国際エネルギー機関(IEA)の長期シナリオ分析(注1)をオーストラリアの状況にあてはめて、CSIROの迅速な脱炭素化達成シナリオ〔CSIRO Rapid Decarbonization(以下、CRD)〕を策定し、電力部門などにおいては10年ごとのマイルストーンを示した。

CRDは、既存の技術を使うことで、GHGの排出量を2020年の512万トン〔二酸化炭素(CO2)換算〕から2030年に246万トン未満にまで、約52%削減(注2)できる可能性があると指摘した。特に最大のGHG排出源である電力部門では、太陽光や風力、揚水発電の推進や、蓄電池の容量を増やすことで、国内の脱炭素化を短期的に実現できる可能性があるとした。加えて、電力部門が脱炭素化すれば、住居や商業ビル、鉱業(鉱物の加工工程を含む)、輸送など他部門の脱炭素化にもつながると分析している。しかし、特に製造業や輸送など排出削減が困難な産業部門が削減を達成するためには、現在開発の初期段階にある技術〔クリーン水素、CO2の回収・利用・貯留(CCUS)技術、バイオ燃料など〕を、2030年から2040年代中に広く商業利用させる必要があるとしている。

2050年までにネットゼロエミッションを達成するためには、開発の初期段階にある技術、すでに確立された技術・インフラの両方に対して、多額の投資を継続して行う必要があるとした(注3)。政府は民間投資の障壁を取り除きかつリスクを軽減するような政策に注力する必要があるとした。また、各産業部門のスムーズな移行のために、政府は細心の注意を払って政策支援、制度整備などを行う必要があると提言した。

(注1)本レポートがベースにしているIEAのシナリオは、2050年の世界のネットゼロエミッションを想定したNet Zero Emissions by 2050 Scenario(NZEシナリオ)と、既に公表や実施されている政策に限定して推計したStated Policies Scenario(STEPS)シナリオ、なおIEAの各シナリオについては2021年10月14日記事参照)。

(注2)現在の連邦政府の目標である2030年までに2005年比でGHG排出量43%削減よりも高い削減率となる。

(注3)CRDの分析によると、再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵、全国および地域の送電網など電力インフラの整備に加え、老朽化した石炭・ガス火力発電設備の改修を含めて、2020年から2050年までの30年間で760億豪ドル(約7兆2,200億円、豪ドル、1豪ドル=約95円)を追加投資する必要があると推計した。ただし、この金額には、開発初期段階の技術〔クリーン水素、CO2の回収・利用・貯留(CCUS)技術、バイオ燃料など〕への投資額は含まれていないと説明している。

(青島春枝)

(オーストラリア)

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