賃金上昇や人手不足など雇用面に根強い課題、ジェトロ2023年度海外進出日系企業実態調査(北米編)

(米国、カナダ、日本)

調査部米州課

2023年12月05日

ジェトロは12月5日、北米に進出する日系企業を対象とした、現地での活動実態に関するアンケート調査「2023年度 海外進出日系企業実態調査(北米編)」の調査結果を発表した(注1)。

調査結果によると、2023年に黒字を見込む企業は、米国で64.8%、カナダで65.4%と、ともに6割台半ばで、新型コロナ禍前の2019年の水準(米国66.1%、カナダ77.1%)にはいまだ及ばなかった。また、2023年の景況感を示すDI値(注2)は、米国で10.5ポイント(前年17.5ポイント)、カナダで11.5ポイント(30.4ポイント)と、ともに前年を大きく下回った。

黒字見込みやDI値が低調に推移した一方で、今後1~2年の事業展開の方向性として、拡大を予定する企業の割合が米国、​カナダともに5割前後に上った。その最大の理由は現地市場ニーズの拡大だった。米国で事業拡大を予定する企業の拡大先としては、経済規模の大きいカリフォルニア州やテキサス州などが上位に挙がった。

また、賃金上昇や人手不足といった雇用面の課題が根強いことも明らかになった。経営上の課題に関する設問(複数回答)では、「従業員の賃金上昇」を挙げた割合が米国で56.9%、カナダで49.0%に上り、ともに前年に続いて筆頭だった。加えて、米国では、人材不足に直面する企業の割合が70.2%と、本調査における全世界平均の51.5%(2023年11月22日記事参照)を大きく上回った。人材不足の深刻度を職種別にみると、特に工場作業員や​エンジニアなどの専門職で深刻度が高かった。​

調達先をASEANにシフトする動きが顕著に

雇用面以外での経営課題では、「調達コストの上昇」(米国43.8%、カナダ43.0%)や「物流コストの上昇」(米国33.5%、カナダ37.0%)など、調達面の課題が前年に引き続き上位に挙がった。サプライチェーン再編の動きも前年から継続して見られ、調達先を見直す予定がある企業は米国の製造業で4割を超えた。原材料費・物流費・人件費の高騰や、現地調達の推進がその主な理由に挙がった。具体的な変更後の調達先は、最多が米国内(72件)での現地調達だった。次点がASEAN(24件、前年14件)で、そのうち「中国からASEAN」(15件)へのシフトが過半数を占めた。​

人権尊重や脱炭素化の課題認識が高まる

ビジネスと人権に関する社会的要請の高まりに応えるかたちで、人権を重要な経営課題と認識する企業は米国、カナダともに8割前後と、前年から20ポイント以上増加した。他方で、人権デューディリジェンスを実施する企業は米国で3割に至らなかった。人手・時間・コストといったリソース不足などが人権尊重や脱炭素化の取り組みを困難にしており、大企業と中小企業で取り組み度合いの差が浮き彫りになった。

上記を含め、本調査では、(1)営業利益見通し、(2)経営上の課題と対応策、(3)雇用環境と賃金実態、(4)サプライチェーン(調達・生産・販売)の見直し、(5)事業展開の方向性、(6)ESG(ビジネスと人権、脱炭素化)への対応、(7)米国連邦政府の政策影響(米国のみ)を紹介している。詳細は冒頭リンク先を参照。

(注1)本調査は、海外に進出する日系企業活動の実態を把握し、日本企業・政策担当者向けに幅広く提供することを目的に、原則年1回、オンラインによるアンケート形式で実施しているもの。調査実施期間は2023年9月6~26日。調査対象は北米進出日系企業(製造業・非製造業)のうち、直接出資および間接出資を含めて、日本の親会社の出資比率が10%以上の企業および日本企業の支店。有効回答数は829社/1,874社(有効回答率44.2%)。今回調査が米国では1981年以降42回目、カナダでは1989年以降34回目。過去調査結果はこちらから。

(注2)Diffusion Indexの略で、営業利益が「改善」すると回答した企業の割合(%)から「悪化」すると回答した企業の割合を差し引いた数値。

(葛西泰介)

(米国、カナダ、日本)

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