景況感は悪化もグローバルサウス主要国に明るい兆し、ジェトロの2023年度海外進出日系企業実態調査(全世界編)
(日本、世界)
調査部調査企画課
2023年11月22日
ジェトロは11月21日、「2023年度 海外進出日系企業実態調査-全世界編-」の結果を発表した。同調査は、海外に進出する日系企業活動の実態を把握し、日本企業・政策担当者向けに幅広く提供することを目的に、毎年、オンラインによるアンケート形式で実施しているもの。最新の調査は2023年8月後半~9月に海外83カ国・地域の日系企業1万8,726社を対象に実施し、7,632社から有効回答を得た(有効回答率40.8%)。
中国での業績悪化際立つ一方、グローバルサウスの主要国では事業拡大意欲が回復
調査結果によると、2023年の営業利益見通しについて、回答企業の63.4%が「黒字」を見込む(同設問の有効回答は7,236社)。世界全体での黒字企業の割合は、2020年以来、3年ぶりの減少となった。主要地域別では、北東アジアやASEANなどで同割合が減少する一方、中南米やアフリカ、中東では増加した。主要国では、インドやメキシコ、ブラジルなどの国で、営業利益が前年比で「改善」すると回答した企業の割合が高い。インフレや金利の高止まりなどを背景に、国際ビジネスを巡る環境が厳しさを増す中、グローバルサウス主要国における業績見通しには明るい兆しが見られる結果となった。
今後1~2年の事業展開の方向性に関する設問では、現地事業の「拡大」を見込む日系企業は47.0%となった(同7,582社)。前年の調査結果(45.4%)からほぼ横ばいとなり、依然として新型コロナ禍前の2019年(48.9%)には届かなかった。一方で、同割合は、インド(75.6%)やブラジル(68.9%)、南アフリカ共和国(57.7%)、ベトナム(56.7%)、メキシコ(56.4%)などで高い。周辺国市場も含む需要の伸びが、現地の事業拡大意欲を高めていることを示す結果となった。他方、中国では、比較可能な2007年以来、初めて「拡大」が3割を下回った(27.7%)。半面で、「第三国への移転・撤退」を選択する企業は1%にも満たず、ビジネスの継続へ慎重に取り組む姿勢がうかがえる。
ビジネスと人権への意識、全世界で高まるも、中小企業の取り組みに遅れ
サプライチェーンにおける人権を重要な経営課題と認識する企業は、82.3%となり、前年(59.8%)と比べ、全世界的に著しい認識の向上が見られた(同6,321社)。他方、人権デューディリジェンス(DD)を実施する企業は28.5%と3割に至らず、前年から横ばいとなった(同6,171社)。進出国の関連法規制の整備も、企業の取り組みの進捗に影響していると考えられる。
2021年以来、脱炭素化に取り組んでいる企業は一貫して増加しており、2023年度は「すでに脱炭素化に取り組んでいる」(44.9%)または「取り組む予定がある」(32.7%)企業は合わせて77.6%となった(同7,131社)。他方、人権デューディリジェンスの実施、脱炭素化の取り組みのいずれにおいても、大企業と中小企業の対応差がより広がっている実態も浮き彫りになった。
全世界で人材不足が課題に、欧米主要先進国での賃上げはインフレ率に追い付かず
人材不足の課題に直面している企業の割合は全体で51.5%となり、半数を超えた(同7,247社)。国・地域別では、オランダ(72.0%)や米国(70.2%)、ドイツ(67.5%)、フランス(65.2%)など、特に欧米先進国で人材不足がより深刻な傾向が示された。
2023年の賃金ベースアップ率(名目)は、インドで9.8%、メキシコで8%と高く、インフレ率を上回る賃上げが見込まれる。一方、欧米主要国では、高止まりするインフレ率に賃金ベースアップが追い付かない状況が続いているとみられる。
(川嶋康子)
(日本、世界)
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