量子時代に備えたデータ安全確保、東芝とシンガポール量子通信会社と連携強化

(シンガポール)

シンガポール発

2023年12月22日

東芝とシンガポールの量子暗号通信システム会社スペクトラル(SpeQtral)は、既存のコンピュータよりも高速計算が可能となる「量子コンピュータ時代」の到来に向け、データ通信の安全を確保するため連携強化を図っている。両社は11月24日、シンガポール全土を網羅する耐量子暗号方式(注)の「国家耐量子ネットワーク・プラス(National Quantum-Safe Network:NQSN+)」の構築で、連携を強化する方針と発表した。

超高速処理が可能な量子コンピュータの普及が進むと、現在、安全にデジタル情報をやり取りするための暗号通信技術が、量子コンピュータによって簡単に解読される懸念がある。このため、シンガポール政府は6月6日、「NQSN+」を向こう10年で整備する方針を発表した(2023年6月8日記事参照)。同ネットワークは、量子コンピュータでも理論的に絶対盗聴できないと保証されている「量子鍵配送(QKD)技術」を用いて、暗号鍵を情報の送受信者間で共有し、データを暗号化することで、データ通信の安全を担保できるメリットがある。情報通信開発庁(IMDA)は11月15日、スペクトラルとシンガポールの情報通信サービス会社SPテルの共同事業体と、シンガポール・テレコムの2社を同ネットワークの開発会社に指名した。

スペクトラルはシンガポール国立大学の量子技術センター(CQT)からスピンオフして、2017年に設立された量子暗号通信システム会社。東芝はスペクトラルに、東芝が開発したQKDシステムと量子鍵管理(Q-KMS)ソフトウエアを提供する。両社は2021年に、量子暗号通信事業で協業を開始した。スペクトラルは2022年に、SPテルの光ファイバー通信網に東芝のQKDシステムを導入し、シンガポールでは初の耐量子暗号方式の通信回線を実現していた。

東芝は2022年4月、英国通信会社BTとロンドンで、世界初の量子暗号通信の商用向け実証サービスを開始。英国の会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)と金融大手HSBCが利用企業として実証サービスに参画している。東芝は今回のNQSN+プロジェクトを皮切りに、東南アジアでの耐量子暗号方式の通信事業へ参画していきたいとしている。

(注)量子コンピュータを使用しても、暗号化データの解読が困難な暗号方式。

(本田智津絵)

(シンガポール)

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