バイデン米政権、医療費と処方薬コスト削減の新たな措置発表

(米国)

ニューヨーク発

2023年12月11日

米国ホワイトハウスは12月7日、医療費や処方箋薬のコスト削減の新たな措置を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。バイデノミクスの一環としてこれまでもインフレ削減法などを通じてさまざまな取り組みを行い、その成果をPRしてきたが(2023年8月18日記事参照)、大統領選挙を2024年に控える中で、メディケアを含む歳出の大幅削減を求める共和党との違いをさらに鮮明にしたい狙いがあるものと思われる。

バイデン政権が新たに打ち出した施策は以下のとおり。

1.処方薬のコスト削減

税金を活用して発明された医薬品について、バイ・ドール法(注1)を適用することとし、当該発明を民間企業などにライセンスすることで、国民が手頃な価格で入手できるようにする。トランプ前政権下では医薬品の特許に関して、価格を要因としてこの法律を適用することを禁止する規則案が提案されていたが、バイデン政権は規則案を撤回し、適用可能とする提案をした。

2.反競争的買収と反競争的行為の精査

ヘルスケア市場の統合はコストの上昇、質の低下、ケアへのアクセス減少を招くことが多いとし、政府横断的な調査を行うとした。司法省、連邦取引委員会、保健福祉省が協力して、企業のヘルスケアに対する権力と支配の増大が米国民にどのような影響を与えているかについて意見を求めるべく、共同で情報要請書を発行する。これを活用して今後の規制と執行の優先順位付けが必要な分野を特定していく。

これに加え、反トラスト法の審査を回避している反競争的なロールアップ(注2)を特定するべく、司法省、連邦取引委員会、保健福祉省がデータを共有するほか、ヘルスケアの所有権データ公開による透明性の向上なども盛り込んでいる。

これらの施策について、与党・民主党からは歓迎の声が上がる一方で、米国研究製薬工業協会は「バイ・ドール法で明文化された権限は、連邦政府の資金提供を受けた研究を商業化するための努力が民間部門のパートナーによって行われていない場合の安全策として制定されたものであり、政府による価格決定を意図するものでは断じてない」とし、上院の保健・教育・労働・年金委員会の共和党トップを務めるビル・キャシディ上院議員(ルイジアナ州)は「この種の近視眼的な決定は、米国のヘルスケア分野のイノベーションを台なしにし、何百万人もの米国人の命を救う治療法を否定するものだ」といった声明を出すなど、反対の声も上がっている(CNN2023年12月7日)。

(注1)1980年に政府資金による研究開発から生じた発明について事業化の促進を図るため、その特許権などを民間企業などに帰属させることを骨子として制定された法律。

(注2)反トラスト法では、5,000万ドル未満の取引の場合には申告不要としている。この仕組みを活用して、5,000万ドル未満の取引を連続的に行う手法のこと。

(加藤翔一)

(米国)

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