11月の米地区連銀報告、消費・雇用の減速や商業用不動産のリスク指摘

(米国)

ニューヨーク発

2023年12月01日

米国連邦準備制度理事会(FRB)が11月29日に公表した地区連銀経済報告(ベージュブック、注)で、全体概況は前回報告から引き下げられ、経済活動の減速が示された(2023年12月1日記事参照)。また、各連銀から消費や雇用情勢の減速を示唆する内容や、商業用不動産のリスクを懸念する内容が報告された。

消費は、10月の小売り統計(2023年11月16日記事参照)でみられた下降トレンドが定着してきている様子が報告されている。具体的には次のとおり。

(1)低・中所得者層を中心に、家計の消費余力が低下しているほか、金利の影響を受けやすくなっている

  • 低所得者層は割引商品の購入を求め、支出を減らしている。中所得者層は1回当たりの購入品数が減少している(フィラデルフィア連銀)。
  • クレジットカードなど特定のローンカテゴリーで、延滞がわずかに増加している。低・中所得者層が余剰貯蓄を使い果たし、カード利用が増加したためと考えられる(クリーブランド連銀)。
  • 低・中所得者層が貯蓄をほとんど使い果たしており、家計をやりくりするためにますますクレジットカードに頼るようになっている(カンザスシティー連銀)。

(2)金利高が消費に大きく影響を及ぼし始めた

  • 高金利と信用基準の厳格化により、高額商品の需要や取引が抑制されている(フィラデルフィア連銀)。
  • 金利の上昇により、自動車ローンの期間は84カ月が標準となり、長期化している(ニューヨーク連銀)。
  • 自動車価格と金利の上昇による購入可能な金額の低下が自動車販売を低下させている(ダラス連銀)。

(3)裁量的支出が減少している

  • 複数の量販店が裁量品の売上高減少を報告したほか、レストランや卸しなど裁量的なサービスの売上高も減少した(クリーブランド連銀)。
  • 衣料品店と食料品店は売り上げと需要が堅調に増加しているが、家具店と家電量販店は購入額が減少したと報告した(リッチモンド連銀)。

労働市場は、熟練労働者や専門スキルを持つ労働者の採用が引き続き困難な様子が報告されたものの、解雇への言及が前回報告書(5カ所)から倍増した。具体的には、「人材派遣会社は顧客の採用計画の鈍化に気づいた。人員削減や雇用計画の削減を通じてビジネスを適正化しているようだ」(ボストン連銀)、「一部のセクターでは採用活動と雇用計画が著しく後退している」(ボストン連銀)、「一部の金融サービス企業は雇用制限や業績不振の分野の人員削減を行っているほか、製造業は需要の鈍化を要因として、人員削減や一時解雇を行っている」(フィラデルフィア連銀)など、雇用情勢の減速が本格的に始まったことを示唆する内容となっている。

商業用不動産は、「オフィス部門ではオーナーは新たな賃貸契約を確保するために、大幅な条件の譲歩、インセンティブ、テナント改善手当を提供する必要があり、実質賃料ははるかに低くなっている」(リッチモンド連銀)といったオフィス部門を中心とした不振が続いていることに加え、「かなりの数の銀行がビジネスおよび商業ローンの基準を厳格化した」(ニューヨーク連銀)、「ほとんどの金融機関が融資基準を引き上げ、資金調達へのコミットを減少させたため、関係者は資金調達に関する懸念を示している。商業用不動産ローンの満期増加と資産価値の下落は、同部門の重大な下振れリスクとなっている」(アトランタ連銀)、「今後6カ月で信用の質がさらに悪化すると予想している。銀行部門は商業用不動産が直面する主なリスクとして、特に短期で満期を迎えるローンで債務返済コストの上昇とキャッシュフローの減少を挙げている」(カンザスシティー連銀)など、ローンの満期を迎える中で、今後の資金調達に困難を来すかもしれないと警告している。

(注)連邦公開市場委員会(FOMC)の開催に先立って年8回公表しており、銀行からの報告や、ビジネス関係者などの声を基にまとめたもの。

(加藤翔一)

(米国)

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