パンダ債とサムライ債を相次いで発行、外貨調達の多様化を図る
(エジプト)
カイロ発
2023年11月07日
外貨準備高不足に悩むエジプト政府は、10月に中国元建て国債(パンダ債)(注1)を発行したのに続き、11月に750億円の円建て国債(サムライ債)(注2)の発行を予定している。モハメド・マイート財務相の発言として11月2日、国家情報サービスが報じた。目的は、昨今の地政学的緊張がもたらした経済的課題を克服するため、資金調達の多様化、対外債務コストの削減、国際投資家を多様化することだとしている。サムライ債の発行は今回で2回目となる。
エジプト政府は2022年3月に、総額600億円(5億ドル相当)のサムライ債の発行を決定し、中東アフリカ諸国で初めて日本の資本市場アクセスに成功した(サムライ債は日本国内で起債)。日本貿易保険(NEXI)によると、NEXIはこのサムライ債に係る三井住友銀行の保証債務の海外事業資金貸付保険を引き受けており、NEXIにとって初の本格的なキャピタルマーケット活用案件となっていた。続いて、2023年8月に、2回目となるサムライ債の発行(償還期間5年)が閣議決定され、11月末までに起債される見込みとなった。
今回のサムライ債発行に先立ち、アフリカ開発銀行は2023年10月17日、エジプトが総額35億元(5億ドル相当)の3年物サステナビリティ・パンダ債を発行したと発表した。中国銀行がHSBC銀行(中国)の支援を受けて起債主幹事となり、アフリカ開発銀行とアジアインフラ開発銀行が部分的に信用保証し、急成長する中国の債券資本市場にアフリカ諸国でエジプトが初めてアクセスに成功した。
10月31日付アラブファイナンス紙によると、内閣情報・意思決定支援センター(the Cabinet’s Information and Decision Support Center, IDSC)の経済専門家で公共政策アナリストのヘバ・サラー(Heba Salah)氏は、サムライ債やパンダ債発行の狙いについて、投資家層や資金源を多様化し、欧米以外の投資家を刺激することにあるとみている。同紙はまた、サムライ債やパンダ債などのアジア債券が、エジプトの気候変動対策や持続可能な輸送、再生可能エネルギーなどのプロジェクトへの資金源となっており、低金利での資金調達が可能なところにも魅力がある、と報じている。サラー氏は、これらの債券発行が、エジプトのグリーン経済への移行を推進し、日本や中国のような国々との貿易や投資を促進する上で重要な役割を果たすと述べた。さらに、市場調査・事業開発スペシャリストのオマール・アブデラーマン(Omar Abdelrahman)氏は、外貨不足に直面する中、発行のための条件が容易なことも手伝ってエジプトの外貨調達源を多様化する良い解決策になっており、融資借り入れに比べて低リスクの資金源でもあるアジア債券が、政府の現在・将来の主要プロジェクトの資金源となるだけでなく、既存の債務返済を助け、エジプト経済にとって生命線になるとみている。
(注1)パンダ債は、海外政府や企業が中国国内の資本市場で発行する人民元建て債券。
(注2)サムライ債は、海外政府や企業が日本国内の資本市場で発行する円建て債券。
(西澤成世)
(エジプト)
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