インド太平洋のサプライチェーン強靭化を議論、ジェトロ・米シンクタンクセミナー

(米国、日本、インド、ASEAN)

ニューヨーク発

2023年11月06日

ジェトロと米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は11月1日、首都ワシントンで「サプライチェーンの強靭(きょうじん)性とインド太平洋における経済成長の見通し」と題するセミナーを共催外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

米国のクリスティーナ・シガル-ノウルズ国家安全保障会議(NSC)大統領特別補佐官兼国際経済上級部長は開会あいさつで、バイデン政権は国内で新興技術やクリーンエネルギーに一世一代の投資を行いつつ、日本を含むインド太平洋地域の同盟・パートナー国と双方の産業と雇用に利益をもたらす経済協力を進めている、と説いた。こうした経済協力が成功するかは、いかに安全なサプライチェーンを構築して貿易や投資を持続させるかにかかっていると強調した。その上で、経済的威圧への対処や国家安全保障に影響を与える機微技術の保護にも取り組む必要があると主張した。

基調講演を行ったジェトロの石黒憲彦理事長は、企業がサプライチェーンを見直す中で、同志国や近隣国との貿易関係がより強まり、特にASEAN諸国やインドが新たな生産・調達先として注目を集めていると指摘した。インド太平洋地域におけるサプライチェーンに関し、日米を含む各国政府は(1)信頼性のあるサプライチェーンの構築支援、(2)有志国間での共通原則に基づいた透明性の高い輸出管理、(3)ルールに基づく自由で公正な経済秩序の維持で協力すべきと呼びかけた。とりわけ、自由貿易により世界の成長を牽引してきたインド太平洋地域にとって、インド太平洋経済枠組み(IPEF)や環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)などの地域内のルールの土台を作るイニシアチブの重要性を訴えた。

パネルディスカッションでは、日本、米国、ASEAN、インドの有識者が各国・地域の視点からサプライチェーンの強靭化について議論した(注)。早稲田大学の戸堂康之教授(日本)は、ASEAN諸国やインドなどの友好国とのサプライチェーン構築を支援するために、日米の政府はこれらの国々への民間企業の直接投資を促進すべきと提起した。これにはIPEFなどの国際枠組みを通じた企業への情報提供やビジネスマッチングが有効だと言及した。東アジアビジネスカウンシルのシャンティ・シャムダサニ会長(ASEAN、インドネシア)は、テクノロジーの導入を必要とするサプライチェーンの現代化は物流業界の雇用削減につながり得るため、途上国では困難な課題になるとの懸念を示した。また、東南アジア諸国では汚職が横行しているとし、物流業界の透明性の向上も課題として挙げた。

デリー・ポリシー・グループのV.S.セシャダリ上級研究員(インド)は、経済的な強靭性を開発に組み込むことは急務だと唱えた。そのためにインドは、(1)懸念国からの投資・輸入の精査や制限、(2)医薬品や半導体などの国内製造能力の強化、(3)日米など友好国との2国間や多国間でのサプライチェーン協力、(4)自由貿易協定(FTA)の新規締結や既存のFTAの見直しという4つの取り組みを実施していると解説した。CSISのエミリー・ベンソン貿易・技術プロジェクト長(米国)は、米国は投資規制など国家安全保障のための措置において他国よりも踏み込んだ政策を打ち出している一方、サプライチェーンのリスク低減という方針では同盟・パートナー国と一致しているとの見解を示した。その上で、今後は経済安全保障にとって、どのサプライチェーンが本当に重要かをより綿密に検討する必要があると提言した。

写真 パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

(注)パネリストは次のとおり。モデレーターはクリストファー・ジョンストンCSIS上級顧問兼日本部長が務めた。

  • 日本:戸堂康之・早稲田大学政治経済学術院教授
  • ASEAN(インドネシア):シャンティ・シャムダサニ S.ASEANインターナショナル・アドボカシー・アンド・コンサルタンシー最高経営責任者(CEO)兼社長(創設者)/東アジアビジネスカウンシル会長
  • インド:V.S.セシャダリ・デリー・ポリシー・グループ上級研究員(経済安全保障)
  • 米国:エミリー・ベンソン CSIS貿易・技術プロジェクト長

(甲斐野裕之)

(米国、日本、インド、ASEAN)

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