バイデン米政権、AIの安全性に関する新基準などの大統領令公表

(米国)

ニューヨーク発

2023年11月01日

米国のバイデン政権は10月30日、人工知能(AI)の安心、安全で信頼できる開発と利用に関する大統領令を発令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。今回の大統領令は、AIに関して、新たな安全性評価、公平性と公民権に関するガイダンス、AIが労働市場に与える影響に関する調査を義務付けるもので、米メディアの報道によれば、米国において初めての法的拘束力のある行政措置となる。グーグルやオープンAIなどのAI開発で先行する企業はこれまでに、AIの安全な開発のための自主的な取り組みを発表し、強制力のある規制が導入されるまでそれらを続けるとしていた(注)。

ホワイトハウスが同日に公開したファクトシート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでは、大統領令の主要な構成要素を8つの項目に分けている。概要は次のとおりだ。

1. 安全性とセキュリティーの新基準:商務省傘下の国立標準技術研究所(NIST)は、AIシステムが一般公開される前のテストに厳格な基準を設定する。国土安全保障省は、これらの基準を重要インフラ分野に適用し、AI安全保障委員会を設立する。また、国家や経済の安全保障、公衆衛生や安全性に重大なリスクをもたらす基盤モデルを開発する企業に対し、モデルのトレーニングを行う際の政府への通知、テスト結果の政府への共有を義務づける。

2. 米国民のプライバシー保護:議会に対し、全ての米国民、特に子供のプライバシー保護を強化するため、超党派のデータプライバシー法案を可決するよう求める。また、全米科学財団の実施する助成金事業「リサーチ・コーディネーション・ネットワーク」への資金提供を通じ、暗号ツールのような個人のプライバシーを保護する研究や技術を強化する。

3. 公平性と公民権の推進:AIアルゴリズムが司法、医療、住宅における差別を悪化させるために利用されないよう、家主、連邦政府の各種支援プログラム、連邦政府の請負業者に明確なガイダンスを提供する。また、AIに関連する公民権侵害の調査および起訴のベストプラクティスに関する研修、技術支援、政府機関との調整を通じ、アルゴリズムによる差別に対処する。

4. 消費者、患者、学生の権利保護:医療面では、AIの責任ある利用と、安価で命を救う薬剤の開発を推進する。また、米国保健福祉省は、安全プログラムの確立を通じ、AIが関与する有害、または安全でない医療行為の報告を受け、それを是正するよう行動する。教育面では、AIを活用した教育ツールを導入する教育者を支援するリソースの創出を通じ、教育を変革するAIの可能性を形作る。

5. 労働者の支援:雇用転換、労働基準、職場の公平性、安全衛生、データ収集に取り組むことで、労働者にとってのAIの害を軽減し、利益を最大化するための原則とベストプラクティスを開発する。

6. イノベーションと競争の促進:研究者や学生がAIデータにアクセスできる「全米AI研究リソース」の試験運用を通じ、米国全体の研究を促進する。医療や気候変動など重要分野における助成金を拡大し、米国全体の研究を促進する。

7. 外国における米国のリーダーシップの促進:国務省は商務省と協力し、国際的な枠組みを構築する取り組みを主導する。国際的なパートナーや標準化団体との重要なAI標準の開発と実装を加速し、技術の安全性、信頼性、相互運用性を確保する。

8. 政府によるAIの責任ある効果的な利用の保証:政府全体でAI専門家の迅速な採用を加速するとともに、権利と安全を保護するための明確な基準や各省庁がAIを利用する際の明確なガイダンスを発行する。

発表を受けて、ホワイトハウスのブルース・リード副首席補佐官は声明で、この大統領令は「AIの安全性、セキュリティー、信頼性に関して、世界各国の政府がこれまでにとったことのない、最も強力な一連の行動」を意味するとコメントした(CNBC10月30日)。

大統領令のほかにも、議会ではAI規制に関する法案づくりが進められている。上院では9月13日にAI規制を巡る超党派の特別会議が開催され、IT企業との間で規制に関する協議が進められてきた。EUなどでもAI規制が検討されるなど、世界的にAI規制の検討が進められている(「ワシントン・ポスト」紙電子版9月14日)。

(注)これまでの経緯は、2023年7月25日記事2023年9月20日記事参照

(樫葉さくら)

(米国)

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