米USTR、自動車部品工場での労働権侵害の疑いでメキシコ政府に17件目の確認要請

(米国、メキシコ)

ニューヨーク発

2023年11月21日

米国通商代表部(USTR)は11月20日、メキシコ中央部ケレタロ州エルマルケスに所在するスウェーデンの自動車部品メーカー、オートリブの工場で労働権侵害の疑いがあったとして、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」に基づき、メキシコ政府に事実確認を要請したと発表した。

RRMは、事業所単位で労働権侵害の有無を判定する手続きで、違反が認められれば、USMCAによる特恵措置の停止といった罰則が適用される。RRMの手続きは、USMCA加盟国政府が独自に発動できるが、労働組合などの第三者機関が加盟国政府に労働権侵害を申し立てることも可能だ。今回は、メキシコの新興労組「組合変革(Transformación Sindical)」から申し立てを受けたとしている。雇用者側が、労働者による組合設立活動への報復として労働者を解雇したほか、組合活動の妨害や、「組合変革」による施設への立ち入りを拒否した疑いがある、との理由に基づく。USTRのキャサリン・タイ代表は「米国は、雇用者が結社の自由と団体交渉権を侵害しているとの証拠があれば、労働者を守るためにRRMを活用するという確固たる実績を積み重ねている」と、RRMの成果を強調している。

事実確認の要請を受けたメキシコ政府はUSMCAに基づき、調査を行うか否かを10日以内に返答しなければならず、調査を行う場合には45日以内に完了する必要がある。また、今回のUSTRによる確認要請をもって、米国は対象施設からの製品輸入について、両国間で労働権侵害の解消に合意するまで、最終的な税関での精算を留保できる。実際、キャサリン・タイUSTR代表は財務長官に対し、同工場からの製品輸入にこの措置を適用するよう指示PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。

米国は特に2023年に入ってからRRM手続きを多数発動しており、今回で既に12件目、また、USMCA発効からは合計で17件目の発動となる(添付資料参照)。メキシコ政府はこれまで、米国から確認要請を受けた案件の多くで、問題の迅速な解決に向けて米国政府に協力してきた。しかし最近は、メキシコ政府は案件によってはRRMを利用する適格性を欠くものもあるとして、事実確認要請を拒否する案件も出ている。また、事実確認の対象となった工場の中には、RRMが直接的な影響を与えたかは不明なものの、閉鎖を決定した例も出ている(2023年10月12日記事参照)。同制度を巡る米・メキシコ両国の運用とその影響が引き続き注目される。

(磯部真一)

(米国、メキシコ)

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