マレーシアの高齢者人口、2030年までに年平均4.5%拡大

(マレーシア)

クアラルンプール発

2023年11月16日

マレーシアの大手金融RHBバンク傘下のシンクタンクRHBリサーチは11月8日、マレーシアにおける65歳以上の高齢者人口が、2022年から2030年にかけて年平均増加率4.5%で拡大し、増加率としては調査対象国の中でシンガポールに次いで高くなるとの予測を発表した(RHBリサーチ11月版地域報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます))。長期的には、世界銀行の推計に基づき、マレーシアの高齢者人口の比率は2056年までに20%に到達するという。平均寿命の延びと出生率低下がその背景にある。マレーシア統計局によれば、2022年時点のマレーシアの平均寿命は73.4歳で、年齢中央値は30.4歳。65歳以上の構成比は7.2%にとどまる。

RHBリサーチは、「マレーシアの経済成長率は、ベースライン予測で2022年の8.7%から2056年には1.8%まで低下する」「人口動態の急速な変化により、経済成長の維持のために、雇用、年金基金の持続可能性、所得保障、医療、高齢者介護といった分野で政策課題が深刻化する」と予想した。人口の急速な高齢化は、労働力人口の減少を意味する。25歳以下の人口の年平均増加率は2019~2030年にマイナス0.7%、26~64歳は同1.5%にとどまると予測され、経済成長鈍化のリスクとなる。

労働力不足への対応として高齢者向け訓練や年金システムの改善を

現在のマレーシアの退職年齢は60歳で、フィリピン(65歳)やシンガポール(62歳)、韓国(65歳)などより若い。また、「寿命が延びたにもかかわらず、従業員積立基金(EPF)の全額引き出しは55歳」だとし、早期に引き出し額を消費した場合には不安を残す制度設計であることを示唆した。また今後、「年金貯蓄の不足による退職年齢の遅れや高齢者介護支出の増大が見込まれる」「離職した低所得層は、子供か年金に依存せざるをえない」と見通した。マレーシア人が老後の経済的安定性を確保するためには、将来的により長く働く必要があるとし、働き続けたいとする高齢者のため、例えば高齢者雇用を促進するための訓練や生涯学習の機会増加といった戦略的な政策策定が重要と指摘した。加えて、EPFへ拠出する労働者の割合を増やし、退職後の貯蓄を維持するための措置の導入も促した。

同レポートでは、高齢化先進国として日本を取り上げ、「介護のさまざまな分野で日本の高い技術が生きており、新たな産業を発展させるとともに、高齢者ニーズに柔軟に対応する社会の構築にも貢献している。高齢化がさらに進む中、エイジテック業界は高い成長可能性を秘めている。アジア諸国でも、介護産業の成長に向けた長期目標を設定しつつ、技術インフラを高齢者産業に統合する取り組みを講じるべきだ」と提言している。

マレーシアでは、新型コロナウイルス感染拡大も1つのきっかけに、ヘルスケア分野におけるデジタル化や人工知能(AI)などの新技術の導入が加速するとともに、シニア向けサービスの専門施設ニーズも増えつつある。マレーシアの医療ビジネスについては、「マレーシア医療ビジネス解説セミナー-リハビリ・医療予防-」(2023年2月9日実施)も参照。

(吾郷伊都子)

(マレーシア)

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