マレーシアでCBAMの影響はいまだ読めず、中小企業には懸念も

(マレーシア、EU)

クアラルンプール発

2023年10月11日

EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)に対するマレーシア国内での意識醸成は今後進むと考えられる。現在のところ大きな懸念には至っていないものの、対象製品に関して、EUへの輸入者による温室効果ガス(GHG)排出量などの報告義務が始まった10月1日前後、特に中小企業への影響を懸念する報道も出ている(注)。

テンク・ザフルル・アジズ投資貿易産業相は2023年3月、少なくとも初期段階ではCBAMによるマレーシアへのインパクトは大きくないと見通した。例えば、対象品目の1つの鉄鋼でも、業界単位でマレーシア政府などへ働きかけを行う状態には現在のところ至っていない。同国の日系鉄鋼関係者によると、主にマレーシアを含むASEAN地域では、現地生産できない鋼材を現地需要向けに安定的に供給することが日系鉄鋼メーカーの主な役割とみられているためだ。マレーシア製造業者連盟(FMM)も2023年7月にパブコメを提出するよう通知外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出したが、マレーシア企業や関連団体から意見は出ていない(欧州委員会ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

他方、投資貿易産業省(MITI)は、CBAM施行の初年度には産業の6~7%が影響を受けると試算し、準備を怠れば将来的な影響はさらに拡大するとも指摘した。産業界のCBAMへの対策を支援することも視野に、10月2日に発表した「国家産業ESG(環境・社会・ガバナンス、i-ESG)フレームワーク」(2023年10月4日記事参照)の中で、MITIや投資開発庁(MIDA)主導で、欧州市場に輸出される製品の炭素排出量評価を行うことを明記している。

また、マレーシアの民間調査会社ケナンガ・リサーチは2023年4月、炭素排出に関する規制強化は世界貿易に新たな課題をもたらすと分析した。「CBAMによる貿易への正確な影響は依然として不明だが、EU向けのコンテナ輸出量は確実に影響を受ける」「アジアとEU間のコンテナ輸送量のうち約18%、特に鉄鋼やアルミニウムのEUへの主要供給国・中国の輸出は打撃を受ける」とし、2026年に課金が開始するとさらにインパクトが拡大する可能性を示唆した。

中小企業のCBAM対応が課題か

中小企業協会のディン・ホンシン会長も、MITIのi-ESG発表に先立つ9月27日、CBAMの本格適用(2026年1月~)をにらみ、特に中小企業はESGの重要性をよく認識した上で対応に積極的に取り組む必要があると強調していた。同氏は、マレーシアの中小企業が今後2年以内に、輸入者から求められる情報を全て整備できるかどうか懸念を示している。

10月5日付の現地紙「スター」は、会計事務所アーンスト・アンド・ヤング・マレーシア法人のシャロン・ヨンパートナーのコメントとして、「特に対象製品の直接の輸出者のマレーシア企業には、業界を問わず影響が出る可能性がある。価格設定や競争力への影響を評価する必要がある」と紹介。自社設備に必要な排出量のデータを収集する能力の開発、炭素排出量を削減する新技術への投資、さらにはサプライチェーン再構築の必要性など、多面的な検討を行うことが重要とし、特に中小企業にとっては未知の経験になるとも述べた。

(注)CBAMは10月から移行期間を開始し、同期間中に事業者はEUへの輸入製品の生産国やGHG排出量などについて、各四半期末から1カ月以内に報告が必要だ(初回の報告期限は2024年1月末)。一方、2026年1月の本格適用以降は、対象製品をEU域内で製造した場合に課すEU排出量取引制度(EU ETS)の炭素価格と同等の価格の支払いが義務付けられる。

(吾郷伊都子)

(マレーシア、EU)

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