2022年の欧州EC市場にインフレの影、業界団体は2023年に回復と予測

(EU、欧州)

ブリュッセル発

2023年10月04日

欧州の小売・卸売業界団体ユーロ・コマースは9月25日、EC(電子商取引)業界団体eコマース・ヨーロッパと共同で「2023年欧州EC市場レポート」を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同レポートは欧州地域全体と37カ国(注1)の国別市場概況、一部の国についての関係者インタビューで構成され、両団体のウェブサイトで簡易版PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)が公開されている。

2022年の欧州EC市場の企業対消費者取引(B2C)の売上高は前年比6%増の8,990億ユーロで、67%を西欧7カ国(ベルギー、フランス、ドイツ、アイルランド、ルクセンブルク、オランダ、英国)が占めた。2022年は年間を通じて進んだインフレの影響による価格上昇が売上高増につながった国も少なくなかった。売上高のインフレ調整を行うと、前年比2%減となり、近年は右肩上がりだったEC市場が初めて縮小したことが分かった。ただし、インフレの影響は一様ではなく、東欧や南欧地域では前年から強まった。

2023年については、インフレも落ち着き始めたことから、売上高は9,750億ユーロ(前年比8%増、インフレ調整後ベースでは同2%増)と予測。ユーロ・コマースのクリステル・デルベルゲ事務局長は、EC市場の成長は今後も続き、2030年にはオンライン販売は小売り全体の3割に達する見込みとした。

各国の関係者へのインタビューでは、第5世代移動通信システム(5G)、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)、デジタルウォレットといったデジタル技術の進歩や、事業者が比較的容易にECサイトを構築できるSaaS(サービスとしてのソフトウエア)などの利用によって、ECが消費者にさらに浸透し、欧州内でEC利用の地域格差解消の機会となることが分かった。また、消費者の環境や製品の循環性(セカンドハンドなど)への関心が高まっており、ECの持続可能性の向上に向け、運送時の温室効果ガス(GHG)排出抑制、返品や包装材の使用量の削減などに取り組む国や事業者の例が報告された。

また、EUでは近年、デジタル化とグリーン化の推進に当たり、EC市場にも関連するさまざまな規制を提案・採択してきた(注2)。eコマース・ヨーロッパのルカ・カセッティ事務局長は、オンラインプラットフォームや環境訴求、包装材などに関する新たな規制が順次適用開始となる今後数年間は、事業者にとって重要な時期となり、規制順守に向けた投資が必要になると指摘。特に越境ECの分野ではEU加盟国間でルールが細分化しているとし、より円滑な越境EC事業環境の実現を求めた。

(注1)EU27カ国、英国、アイスランド、ノルウェー、スイス、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、北マケドニア、セルビア、ウクライナ。

(注2)ジェトロの調査レポート「欧州のEC市場に関する調査(総論編)PDFファイル(1.2MB)」(2023年8月)を参照。

(滝澤祥子)

(EU、欧州)

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