EUのCBAM規則を巡りブラジル政府や業界団体から懸念の声

(ブラジル、EU)

サンパウロ発

2023年10月10日

EU排出量取引制度(EU ETS)に基づいて域内の製造事業者に課される炭素価格と同等の炭素価格を、EU域外から輸入される対象製品に課す炭素国境調整メカニズム(CBAM)の移行期間が10月1日に開始した(2023年10月3日記事参照)。対象製品は鉄・鉄鋼、セメント、肥料、アルミニウム、水素、電力とその一部川下製品。CBAM規則に対して、ブラジル連邦政府や業界団体では懸念の声があがっている。

CBAM規則の移行期間における報告義務に関する実施規則(注)が8月17日に採択される前の段階で、6月13日から7月11日までの期間でパブリックコメントの募集が行われ、ブラジル外務省やブラジルの諸業界団体から意見が寄せられた。ブラジル外務省の7月11日付意見書によると、2005年に始まったEU ETSの適用期間が25年間にわたる4段階(フェーズ)に分けられ、欧州企業にはEU ETSに適応するための十分な時間が与えられたが、CBAMにおいては同類の段階的措置が設けられることがなく、EU域外の企業に対して「恣意(しい)的、不必要、または正当と認められない差別的なダブルスタンダードが見られる」とコメントしている。

ブラジル全国工業連盟(CNI)の7月11日付意見書でも、「CBAMには保護主義的なバイアスがあり、EUの一方的な発案」と批判的な視点を提示している。また、ブラジル鉄鋼協会も同日付意見書で同じ見方を示している。

一方、ブラジルの有識者の中では、CBAMの影響をそれほど懸念していない声もある。元財務相でサンパウロ州工業連盟(FIESP)の持続可能開発高等審議会(Condes)のジョアキン・レビ副会長は6月27日付のFIESP主催のセミナーで、「ブラジルは電源構成におけるクリーンエネルギーの割合が高いため、製品の炭素排出量が比較的に低く、他の国より有利な立場に立っている」と述べた。また、リオデジャネイロ連邦大学経済学部のニバルデ・カストロ教授は6月16日付同大学公式サイトで、「ブラジルには中長期的にグリーン水素を生産し、競争力が非常に高いグリーン商品を欧州に輸出するポテンシャルがある。その意味で、CBAMはブラジルに実質的なチャンスをもたらす」と好意的に捉えている。

(注)CBAM規則では、移行期間を2023年10月1日から2025年12月31日までに設定。実施規則では、移行期間中、対象製品を輸入する事業者に対し、四半期ごとのCBAM報告書を各四半期末から1カ月以内にCBAM移行期登録簿(Transitional Registry)に提出することを義務付けた。初回の提出期限は2024年1月末(2023年8月23日記事参照)。

(エルナニ・オダ)

(ブラジル、EU)

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