在タイ日系企業向けのCBAMセミナーが開催、対応を急ぐ声も

(タイ、EU)

バンコク発

2023年09月27日

在タイ日本大使館とジェトロは9月20日、タイ進出日系企業向けにEUの炭素国境調整措置(CBAM)を解説するセミナーを開催した。バンコク日本人商工会議所(JCC)が協力しており、同会議所のバイオ・循環型・グリーン(BCG)ビジネス担当委員会(注1)の所属企業など100人超の関係者が参加した。

ジェトロ・バンコク事務所の黒田淳一郎所長は「CBAMは今年10月から二酸化炭素排出量の報告義務が必要となり、タイ国内においてもさまざまな議論が行われている。タイのCBAM対象製品の輸出額は大きくないが、今後、他国やタイにおいても同様の措置が実施される可能性がある」として、日系企業に対して情報収集と対応検討を呼びかけた。

続いて、CBAM概要と10月から始まる報告義務、CBAM証書の購入義務が出てくるまでの移行期間、タイ経済への影響などについて、ジェトロ調査部の田中晋主任調査研究員、グリーン&ブループラネット・ソリューションズの梅山研一氏(ジェトロ・コーディネーター)と同社のレッジーナ・ルーテゴード氏が解説した。田中研究員によると、「2026年1月から、EUへ対象製品を輸入する際に製品単位での炭素排出量に応じたCBAM証書の購入が求められ、製品の炭素排出量によってEU域内の輸入者が支払う費用が左右される」という。

写真 CBAMを解説する田中主任調査研究員(ジェトロ撮影)

CBAMを解説する田中主任調査研究員(ジェトロ撮影)

レッジーナ氏の計算によれば、「タイの2022年の対EU輸出のうち、CBAM対象製品が占める割合はわずか0.8%で、タイの輸出全体でみると0.07%にすぎない」という。しかし、田中研究員によれば、「今後、対象品目は拡大される可能性があり、化学品などでタイの主要輸出品目も含まれていく可能性はある」とした。実際、有機化合物やポリマーは追加が検討されており、レッジーナ氏は「プラスチック製品が含まれた場合、タイ企業への影響は必至だ」と述べた。

2023年10月から2025年12月末までの移行期間におけるCBAM報告義務(2023年8月23日記事参照)は、EU側で輸入者が対応することとなるが、タイの輸出者・生産者も詳細な情報を提供する必要が出てくる。報告を怠った場合、罰金が発生する。ただし、排出量の計算方法については、2024年12月末まではEU域外国(タイを含む)の計算方法も使用可能となっている。

なお、EUが移行期間の報告義務に関する実施規則策定に当たって行う意見公募では、タイからは6件の意見が表明された。タイ商務省は、生産工程の関連情報など機密情報の開示により、事業者の利益が損なわれる可能性があることに懸念を表明していた。また、タイ工業連盟(FTI)気候変動研究所は、タイにおけるカーボンフットプリントの評価・検証の基準が、CBAM規則に基づく体化排出量(注2)の決定・認証に適用されること、CBAM導入に際して、タイの炭素クレジット認証制度であるT-VERの基準・ガイドライン、施設所在国の炭素税の使用(控除)が考慮されることなどを求めていた。

参加者からは、「CBAMの情報が限られるなか、認識できたことが有意義だった」という声が多く聞かれ、「今後、二酸化炭素の排出量の明確な提示が急務」「タイからの輸出で不利にならぬよう、対策が必要だ」とする事業者もあった。また、今後、ASEANで生産拠点立地の比較をする際に、炭素排出量という新たな要素が加わるという見方もあった。

(注1)タイ政府が推進する「バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデル」に対応すべく2021年10月に新設。情報収集や日系企業の貢献について議論する。

(注2)CBAM規則における体化排出量とは、対象製品の生産時に排出される温室効果ガス(直接排出)および生産工程で消費される電力の発電に伴って排出される温室効果ガス(間接排出)を合わせたもの(一部の品目は直接排出のみを対象とする)。

(北見創)

(タイ、EU)

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