中国1号店が好調な金子眼鏡に聞く

(中国)

上海発

2023年09月13日

福井県鯖江市の眼鏡製造販売企業、金子眼鏡は4月に中国初となる直営店を上海市にオープンした。同社は、中国のゼロコロナ政策の最中に進出を準備。SNSは公式アカウントにとどめ、積極的な宣伝活動を行っていないものの、購入体験が高く評価され、来店客数と売り上げの最高値を更新し続けている。ジェトロは830日、同社の中国進出について金子眼鏡(上海)の秋田徹董事長最高経営責任者(CEO)に話を聞いた。

写真 金子眼鏡(上海)の秋田徹董事長CEO(金子眼鏡提供)

金子眼鏡(上海)の秋田徹董事長CEO(金子眼鏡提供)

(問)中国進出の経緯は。

(答)日本国内では順調に出店してきたが、今後の事業成長・拡大を考える際に海外市場に目を向ける必要性があった。海外各国の小売店への卸売りに加え、ニューヨークやパリに直営店を出店してきた中で、市場規模の観点から中国は出店候補国として最優先であった。また、新型コロナ禍以前、国内店舗でご購入いただいたインバウンド客のうち、およそ半数が中国大陸からであり、さらにその半数が上海からの顧客だったことから、2021年から進出について具体的に検討を開始した。現地法人の設立を経て、2023428日に中国1号店となる直営店を上海市に開設することになった。店舗選定にあたっては、半年前から常駐し、上海市内外から感度の高い人が多く集まるエリアの路面店を探していたところ、旧フランス租界の武康路に理想的な物件を見つけ、開店するに至った。

写真 金子眼鏡中国1号店(上海市)店舗外観(金子眼鏡提供)

金子眼鏡中国1号店(上海市)店舗外観(金子眼鏡提供)

写真 金子眼鏡中国1号店(上海市)店舗内装(金子眼鏡提供)

金子眼鏡中国1号店(上海市)店舗内装(金子眼鏡提供)

(問)店舗の位置づけと重視していることは。

(答)出店の最重要目的は中国でのブランディングだ。ブランド哲学・ストーリーを、商品、人、店舗環境を通じて消費者に正しく伝えていく。そのため、店舗を最重要メディアとして捉え、消費者に来店いただくことを第一としている。眼鏡は適切なカウンセリングと検眼、骨格に沿ったフィッティングが重要であることから、EC(電子商取引)の展開はしておらず、SNSは微信公衆号(注1)のみ運営。KOLKey Opinion Leader)などのインフルエンサーの起用は一切行っていない。「大衆点評(注2)」には、スタッフの丁寧な接客など好意的な書き込みが多く、高い評価を得ている。また、既存の眼鏡店の概念を取り払い、普段、眼鏡に関心がない方にも入店いただくため、2階のベランダにはパラソルを置き、写真映えする休憩スペースを設け、気軽に立ち寄ってもらう仕掛けづくりをしている。

(問)消費行動の特徴は。

(答)日本国内のインバウンド客の客層と購買データを参考にしたものの、あえてターゲットを狭めてはいないが、より良いライフスタイルを目指す富裕層を第1ターゲットとしている。来店客は女性が多く、日本国内の日本人客より10歳若い、感度の高いお客様が中心。日本の2倍を超える単価の商品を購入している。半数が上海市以外のお客様で、一度に複数本の眼鏡を購入することもある。金子眼鏡を知る来店客は2割程度だが、知名度にかかわらず、新しい店舗やブランドにも高い受容性を持っており、積極的に試し、どこの国のブランドか関係なく良いと思ったものを購入する点も特徴的だ。(消費が振るわないとの見方に対し、)冷静な買い物をするようになっただけで、落ち込みとまでは感じていない。また、嗜好(しこう)についても、中国の消費者は目立つロゴや派手なデザインや色を好むといわれていたが、われわれの商品への受容度からみても今は違うのではないかと感じている。

(問)直面した課題は。

(答)店舗展開に重要な2つの商標が冒認登録されていた。当地の弁護士事務所と共に対応を進め、幸運にも、冒認登録商標の取り消しと取得を約1年の短期間のうちに実現できた。また、新型コロナ禍の進出となったため往来の制限が多く、現地法人設立、日本からの人材派遣、資金送金、物件の交渉・確保などは平時以上の苦労があった。一方、逆境下だからこそ、良い人材を確保することができ、好立地および好条件の契約を実現することもできた。

写真 金子眼鏡中国1号店(上海市)店舗スタッフ(金子眼鏡提供)

金子眼鏡中国1号店(上海市)店舗スタッフ(金子眼鏡提供)

(問)今後の展望は。

(答)上海市の店舗では、初月から売り上げ目標を超え、月を追うごとに来店客数と売り上げの最高値が更新されており、順調に伸びている。今後もターゲットを変えず、中国一線都市への出店拡大を検討していく。複数都市・複数店舗の展開にあたっては、人材の育成と管理体制の構築が課題になる。

ゼロコロナ政策撤廃後の街は活気づき、空き区画も週を追うごとに埋まっている。不安定な状況下で、良い立地とその他の明暗が分かれつつあると感じる。人気エリアやモールの家賃は、日本やアジアの先進国地域に比べても同等か高い。内装投資や給与も日本よりまだ安いとはいえ、今後も上昇すると見込まれることから、「中国だから安い」との感覚は過去のものだ。ネガティブな事象や変化が多い時代だが、失敗を恐れずに取り組むことが必要。日本の成功体験にとらわれ過ぎぬよう、海外のことは海外のプロフェッショナルに任せつつも、現地の状況を正確に日本本社と共有し、現地と国内が一丸となって挑戦することが肝要だ。

(注1)WeChat内に開設する企業の公式アカウント。

(注2)生活情報プラットフォーム。口コミの投稿も可能。

(岸本優子)

(中国)

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