スリランカ経済再建へ、インド・スリランカ・日本が連携しセミナー開催
(スリランカ、インド、日本)
コロンボ発
2023年08月17日
インドのビベーカーナンダ国際財団と、ナトストラット、インド工業連盟、スリランカのパスファインダー財団は8月10日、インドのニューデリーでインド・スリランカ・日本の3国間協力に関するセミナーを開催した(添付資料参照)。同セミナーでは、パスファインダー財団が2023年1月に公開した報告書「スリランカの経済改革を支援するための日本とインド協力に向けた中長期戦略」の執筆者のほか、日本・インド・スリランカの政府関係者や、スリランカで事業を展開するインド企業などがスリランカの経済発展に向けた戦略や協力機会について議論を交わした。
冒頭の主催者や政府関係者によるセッションで、鈴木浩・駐インド日本大使がスリランカの債務再編に対する日本とインドの積極的な関与について紹介した。駐インドスリランカ高等弁務官のミリンダ・モラゴダ氏は、7月のインド・スリランカ首脳会談で示した連携分野(2023年7月25日記事参照)の協力事例を紹介した。
スリランカの投資機会に関するセッション1では、パスファインダー財団が3国間協力に関する報告書の概要を説明するとともに、スリランカ投資委員会(BOI)が同国の投資環境について説明した。スリランカ経済は2022年夏以降、物価が大きく高騰したものの、7月にはインフレ率が1桁台に減少し、外国人観光客も増加傾向にある。同氏はインドからスリランカへの投資状況、物流やエネルギー、観光やITなどの有望投資分野についても紹介した。
再生可能エネルギーやスリランカ東部のトリンコマレーでのエネルギーハブに関するセッション2では、スリランカ・持続可能エネルギー庁(Sri Lanka Sustainable Energy Authority)が電力供給量に占める再生可能エネルギー比率を2030年までに70%に拡大するという目標とともに、太陽光発電や風力発電などの案件を紹介した。スリランカ・エンジニア研究所は再生可能エネルギーへの投資を促すとともに、送電網への技術的支援や洋上風力発電への拡大などを強調した。
環境分野のコンサルタントのニマル・ペレ―ラ氏は、自身が組成・関与している再生可能エネルギーの電力に由来する水素(グリーン水素)の製造に関するコンソーシアムのプロジェクトの進行状況を紹介した。また、インディアン・オイルは、トリンコマレーに所有する石油貯蔵施設について説明した。インドの財閥アダニ・パワーは、風力や日照時間が豊富な点から、スリランカでの再生可能エネルギーの将来性を指摘した上で、スリランカからインドへの送電計画を紹介した。
物流や接続性のセッション3では、シッパーズ・アカデミーがスリランカを介した南アジアや中東、東アフリカなどへの海上物流を提案するとともに、インドなど周辺国の経済成長によるスリランカのハブ機能の潜在性を指摘した。また、バーラット・フレイト・グループがスリランカ北端のカンケサントライ港を拠点とするインドとスリランカ間の貿易について紹介した。
観光や教育、人材育成など人的交流に関するセッション4では、エディス・コーワン大学が、スリランカへの外国人観光客の出身国としては最も多いインドからの観光客をさらに拡大するため、マーケティング戦略の強化を提起した。コロンボ大学は、スリランカの教育制度改革に対する日本とインドの支援を求めた。また、持続可能な生産・消費に関するアジア太平洋ラウンドテーブルからは、機械の修理などを担うエンジニアの育成や、循環経済の実現に向けたリサイクル施設の設立などが提案された。
今回のセミナーを通じて、日本が提唱する「自由で開かれたアジア太平洋」構想で戦略的要衝となるスリランカでの事業機会の明確化を通じたビジネスでの具体的な協力の進展が期待される。
(大井裕貴)
(スリランカ、インド、日本)
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