ロシア、ALPS処理水放出の影響を慎重に見守る構え

(ロシア)

調査部欧州課

2023年08月29日

8月24日の福島第1原子力発電所のALPS処理水(注)の海洋放出を受けて、ロシア政府は検査強化など慎重な姿勢を打ち出したものの、反応はおおむね冷静だ。海洋学の専門家からは海流などの関係でロシア極東沿岸への影響はほぼないとの声が強い。水産物をはじめとした日本製品の輸入に対する市民による反対運動も見られない。

衛生当局である連邦消費者権利保護・福利監督局(ロスポトレブナドゾル)は8月24日、2023年7月に導入済みの日本産水産物の輸入検査強化措置(2023年7月10日記事参照)の実施状況について発表した。検査を強化した7月8日以降、7トンを超える日本からの水産物を検査したところ、放射性物質の基準値を超えるものは見られなかった。

8月24日には連邦動植物検疫局(ロスセリホズナドゾル)が日本からの水産品、魚介類の検査体制を強化すると発表したほか、連邦水産庁も全ロシア水産海洋研究所(VNIRO)に対して、大気や海、漁獲物中に含まれる放射線物質のモニタリングを実施するよう指示した。

ロシア外務省は、処理水の海洋放出の影響に関して日本政府が完全な透明性を持って、関係各国に対し情報を提供し続けるべきとのコメントを発表した(ノーボスチ通信8月24日)。中国外交部発表(8月9日)によると、同国とロシアは共同で日本に対しALPS処理水の海洋放出に関する技術的質問書を提示している。

ロシア国内では、処理水放出のロシアの漁業や水産加工業にとっての影響は大きくないとの見方が主流だ。連邦水理気象学・環境モニタリング局沿海地方支部のボリス・クバイ支部長は「福島県沖からの海流の流れは太平洋側へ向かっており、日本海側への流入はない。ロシア極東の主要な漁場であるオホーツク海、ベーリング海からも遠い」との見解を示した(ロシア新聞8月22日)。消費者の反応も冷静だ。中国や韓国、日本国内での処理水放出への反対の動きは報じられるものの、ロシア国内での目立った動きは聞こえてこない。日本からの水産物の輸入が多くないこともその一因とみられる。

(注)ロシア機関によって表現が異なり、外務省は「原発冷却のために使われた水」や「放射能汚染水」(英語のradioactive waterに相当)」、ロスポトレブナドゾルは「放射能汚染水」(同)、ロスセリホズナドゾルは「処理水」としている。

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