ロシア政府、ダノンとカールスバーグの資産を国有化

(ロシア、フランス、デンマーク)

調査部欧州課

2023年07月25日

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は7月16日、デンマークのビール大手カールスバーグとフランス食品大手ダノンがロシアに保有する資産を一時的に国有化する大統領令第520号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2023年7月16日付)に署名した。これは、ロシアで発電事業を行うドイツとフィンランド企業の資産を国有化した際の大統領令第302号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(4月25日付、2023年5月8日記事参照)にカールスバーグとダノンの関連企業を追加したもの。資産管理は連邦国有資産管理庁(ロスイムシェストボ)が行う。

国有化の対象となる資産は、ダノンが子会社を通じロシア法人の普通株合計約833億株、カールスバーグ関連企業が保有するバルチカ(注1)の全ての株式。今回の突然の国有化は、軟調が続く通貨ルーブルレートに影響を与える可能性を懸念し、外国企業によるロシア資産売却を阻止しようとするロシア政府の意図が働いたとの見方がある。ダノンとカールスバーグは既にロシア事業の売却を決定し、ロシア企業と売却交渉に入っていた。専門家からは、この措置は今回の交渉だけではなく、外国人が関与する資産売却の交渉に影響を与えかねないとの見方も出ている(コメルサント2023年7月16日)。

今回の措置には、外国企業から懸念の声が上がっている。在モスクワの外国企業団体幹部はジェトロに対し(7月18日)、「前回の電力関連企業の資産国有化については、基幹インフラということで、説明できなくもないが、今回のような食品分野での(事実上の)接収の背景は全く理解できない。非常に悪いタイミング(注2)でロシア政府からの外国企業へのメッセージとなった」と述べ、ロシアの投資環境に対する外国企業の不安が高まるとの見方を示した。

(注1)サンクトペテルブルク市内に工場を持つ地場ビールメーカー。カールスバーグが2008年に他社が保有する株式を全て買収した。

(注2)ロシア政府は7月7日、外国企業がロシアの資産を売却して撤退する際の手続きを改正。売却額に応じて一定の国庫納付に加え、撤退企業が事業の買い戻しを行う際の制限措置を追加した(2023年7月21日記事参照)。

(欧州課)

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