米NY市、人材採用や昇進の決定における雇用主によるAI利用を規制

(米国)

ニューヨーク発

2023年07月07日

米国ニューヨーク(NY)市は7月5日、雇用主による人工知能(AI)などの利用を規制する法律(Local Law 144)の執行を開始した。同法は2021年12月に成立し、法執行を担うNY市消費者・労働者保護局(DCWP)が2023年4月に実施のための最終規則PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表していた。

法律は、NY市でAIなどの「自動化された雇用決定ツール(AEDT、注1)」を使う雇用主または人材紹介会社に適用される。対象となる雇用主らは、従業員の採用や昇進の決定プロセスでAEDTを使う場合、その使用前1年以内に性別や人種に基づくバイアスに関する監査(注2)を受け、その結果をウェブサイトで公表しなければならない。NY市に在住する従業員や求人応募者に対しては、AEDTが評価や査定に使用されることを通知する必要がある(注3)。加えて、AEDTによる評価で考慮する職務上の資格や特徴なども通知するよう義務付けている。

法律や規則に違反した場合、初回は最大500ドル、その後は1件につき500~1,500ドルの罰金が科される。DCWPの報道官は今後の執行に関し、違反を告発された企業に対する「苦情を集め、調査を行う」との意向を示した(NBCニュース7月5日)。

雇用主によるAI利用を規制する動きは、NY市以外にも広がる。米国の州・地方自治体との関係構築を支援するマルチステートによると、2023年にカリフォルニア州などの9州とコロンビア特別区(首都ワシントン)で、採用プロセスにおけるAIツールの使用に制限を課す法案が提出された(6月1日時点)。

連邦レベルでも、連邦取引委員会(FTC)や雇用機会均等委員会(EEOC)などが4月、雇用などの決定においてAIを使用して生まれた違法な偏見や差別に対し、既存の法令を厳格に適用する方針を明確にしている(2023年5月8日記事参照)。EEOCは5月には、雇用に関わる選考プロセスでAIを使用する際に、市民権法で禁じられている人種や性別に基づく差別を防止するための雇用主向けガイダンスを公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしている。

(注1)機械学習やAIなどを使い、雇用に関わる裁量的な意思決定を実質的に支援する、または置き換える計算ツールを指す。最終規則では「裁量的な意思決定を実質的に支援する、または置き換える」について、AEDTによる「簡略化されたアウトプット(スコア、タグ、分類、ランキングなど)のみに依存し、他の要素を考慮しないこと」などと定義している。法律の内容については、DCWPのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで公開されている「よくある質問PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」も参照。

(注2)独立した監査者が、性別、人種、民族に基づく影響を評価する。監査の詳細な要件は、最終規則で定められている。

(注3)代替となる選考プロセスを提供可能な場合、それを求める方法も通知する必要がある。ただし、代替となる選考プロセスの提供は義務付けられていない。

(甲斐野裕之)

(米国)

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